独断的映画感想文:それでも私は生きていく
日記:2023年5月某日
新宿武蔵野館で映画「それでも私は生きていく」を見る.
2022年.監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ.
出演:レア・セドゥ(Sandra Kienzler),パスカル・グレゴリー(Georg Kienzler),メルヴィル・プポー(Clement),ニコール・ガルシア(Francoise),カミーユ・ルバン・マルタン(Linn).
サンドラは夫を亡くし通訳と翻訳を職業とするシングルマザー.8歳のリンを学校に送り,父ゲオルグの介護に通う.父は哲学の教師だったが,数年前から神経系の難病のため視力を失い,知力も記憶も失われつつある.すでに一人住まいは無理となった父を,元妻,現パートナー,娘たちが療養施設に入れようと奮闘するが,受け入れ先がなかなか見つからない.
そんな日々,かっての友人だったクレマンと出会い,二人の間に恋が芽生える.リンはクレマンを母の恋人として素直に受け入れるが,クレマンは妻と息子との家庭を捨てることに大きな葛藤があった.父は仮の受け入れ先の病院,民間療養施設をたらいまわしになるうちに目に見えて衰えていく….
ぎりぎりの生活を送っているサンドラの恋は,身も心もぶつける激しいものとならざるを得ない.クレマンは妻との板挟みになっていったんサンドラのもとを離れていく.何故クレマンは来ないのかと問うリン,その間にも父の認知は衰え娘のサンドラさえも認識できなくなる.その間の事情を映画は丁寧に淡々と描いていく.
家じゅうを埋め尽くした書籍を読めなくなった父,あれほど好きだったシューベルトのピアノ曲さえ重すぎると言って聞こうとしない父.その父と向き合う悲哀の一方,愛人としての恋に没入せざるを得ないサンドラ.ダニエル・クレイグの007シリーズ最後の2作品でボンドの恋人を演じた,レア・セドゥの演技力に感服する.
映画の終盤,母とその現パートナー,妹夫妻とリンの従兄妹たちとのクリスマスの夜のハッピーなシーンが印象的.映画は明瞭なハッピーエンドにはならない.しかし人生は捨てたもんではないというエンドにはなっている.そこに至るまで幾度も泣かされた.映像も素晴らしい.ピアノを中心とした音楽も素敵.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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