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2023年8月に作成された記事

2023/08/19

独断的映画感想文:FLEE フリー

日記:2023年8月某日
映画「FLEE フリー」を見る.Flee1
2021年.監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン,アニメーション監督:ケネス・ラデケア,脚本:ヨナス・ポヘール・ラスムセン,アミン・ナワビ.
コペンハーゲンに住むアミンは、友人である映画監督ヨナスに自分の過去を語り始める.1984年,社会主義政権下のアフガニスタン・カブール.両親と二人の姉,兄と暮らしていたアミンだが,幼い頃からゲイであることは自覚していた.
1989年のソ連軍撤退後ムジャヒディーンが主導権を握ると,国内は内乱状態になる.父親は逮捕され行方不明に,一家は身の危険を感じ唯一旅券を発行していたソ連に逃亡する.スウェーデンで働いていた長兄がモスクワでの生活を手配してくれたが,身分証なしでモスクワには長くいられない.長兄の工面した金でまず姉2人がスウェーデンへの密航をしたが,同行の三分の一が死亡するという惨事に巻き込まれる.Flee5
その後残った家族も脱出するが,バルト海をボートで漂流した挙句大型客船に通報され,エストニアに連行され半年間収容所暮らしをしたのち,モスクワに送還される.その後アミンは長兄の配慮でより安全な密輸業者に託され,デンマークへ脱出したが….Flee3
数奇な運命をたどった青年アミンの物語をアニメで描いたドキュメント.アミンは現在はアメリカにいてプリンストン大学の研究生となり,恋人のキャスパーと同居しようかという状況だが,家族を含めた自身の経歴をひた隠しにしていたので,それを親友ヨナスに打ち明けたインタビューというのが,この映画である.Flee2
アミンがモスクワでどう暮らしていたのかや,どうやってアメリカにわたって学問を身につけたのかは,映画では触れられていないので不明.しかし映画の描くアフガニスタンからの逃避行の凄惨さに,とにかく圧倒される.アミンの長兄は,家長としての責任感から家族の脱出費用を工面し続けるが,その負担は如何ばかりだったろう.その長兄が,アミンがゲイであることを了解してくれたシーンは,まことに印象的.Flee4
アミンもそれに応え,何とか学問で身を立てたいと願い,それが恋人との軋轢になるのも深く考えさせられる.存命の関係者が多数いることもあってドキュメントアニメという形式をとった本作だが,考えさせられることの多い内容だった.
★★★☆(★5個が満点).
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2023/08/12

独断的映画感想文:ゴヤの名画と優しい泥棒

日記:2023年8月某日
映画「ゴヤの名画と優しい泥棒」を見る.1_20230813163001
2020年.監督:ロジャー・ミッシェル.
出演:ジム・ブロードベント(ケンプトン・バントン),ヘレン・ミレン(ドロシー・バントン),フィオン・ホワイトヘッド(ジャッキー・バントン),アンナ・マックスウェル・マーティン(ミセス・ゴウリング),マシュー・グード(ジェレミー・ハチンソン)),ジャック・バンデイラ(ケニー・バントン),シャーロット・スペンサー(パメラ).2_20230813163001
1961年,ニューカッスル.ケンプトンは正義感の強い皮肉屋の老人.BBCの視聴に有料の許可証が必要な事態に怒り,BBCのみが見えないよう改造したテレビを盾に支払いを拒否するが,13日間の収監という憂き目にあう.
ケンプトンはかって娘マリアンヌを交通事故で亡くし,その悲しみを題材に幾つも戯曲を書き,あちこちに売り込んでいる.タクシーの運転手をしていたが,困窮者のタクシー料金を勝手に免除したことがばれ,クビになる.家計は妻ドロシーが家政婦をして支えている.ドロシーは常識人,ケンプトンの行動にはついて行けず,長男のケニーが人妻のパメラと同棲しているのも気に入らない.3_20230813163001
おりしもイギリス政府はゴヤの肖像画「ウェリントン公爵」を落札し,ナショナル・ギャラリーで公開した.14万ポンドという落札額に,その金があれば多くの人がBBCを無料で見れる,と憤慨するケンプトン.ある晩,「ウェリントン公爵」は盗まれた.警察は専門集団の犯行と色めき立つ.ケンプトンはその絵を次男ジャッキーの手を借りて,自室の洋箪笥の裏に隠す.
ケンプトンはこの絵を返す代わりにBBCの料金を無料にせよと当局に手紙を出すが,なかなか信用されない.一方,ケンプトンの部屋でケニーとセックス中のパメラが「ウェリントン公爵」を発見,ケンプトンを脅してくる.進退窮まったケンプトンはナショナルギャラリーに絵を返しに行き,その場で逮捕された….5_20230813163001
事実に基づく物語.前半のケンプトンの悪戦苦闘も興味深いが,後半の裁判劇(弁護士役のマシュー・グードが素敵!)のイギリスらしいユーモアも面白い.何よりドロシーとケンプトンの夫婦愛が(あいだに大げんかは数知れないが)感銘的.ジム・ブロードベントとヘレン・ミレンがさすがに見ごたえあり.4_20230813163001
裁判の結果は思いもよらないもので,これが事実に基づく物語なのだから,イギリスは日本とだいぶ違ったお国柄だ.更に最後の最後で明かされるどんでん返しにもびっくり.見て損はなし.邦題は丁寧な題名だが,原題は“The Duke”.「ウェリントン公爵」のことだろう.
★★★★(★5個が満点).
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2023/08/02

独断的映画感想文:アデル、ブルーは熱い色

日記:2023年8月某日
映画「アデル、ブルーは熱い色」を見る.1_20230805173801
2013年.監督:アブデラティフ・ケシシュ.
出演:アデル・エグザルコプロス(アデル),レア・セドゥ(エマ),サリム・ケシュシュ(サミール),モナ・ヴァルラヴェン(リーズ),ジェレミー・ラウールト(トマ),アルマ・ホドロフスキー(ベアトリス),バンジャマン・シクスー(アントワーヌ).3_20230805173801
アデルは文学を学ぶ教員志望の高校2年生.仲間に乗せられるまま上級生のトマと付き合うが,なんとなく違和感があって別れることにする.街で見かけた青く髪を染めた女性と,級友ヴァレンティンに連れていかれたゲイバーで会ったアデル.その女性エマは美術学校の4年生,アデルはエマと付き合い始め彼女に夢中になった….5_20230805173901
アデルとエマの恋愛物語.二人がレズビアンということ以外は,きわめてオーソドックスな恋愛ドラマで,主演2人の好演もあって誠に見応えあり.2_20230805173801
アデルは男の子ともエマとも寝るし,ゲイバーに行き酒を飲み,街頭デモにも参加するが,フランスの女の子としてはごく普通の子らしい.子どもが好きで教員を目指し実習にも励むごく堅実な女性だ.一方エマは画家として一本立ちを目指し,周囲は芸術家が取り巻く.エマと同棲したアデルがホームパーティーのため献身的に働くシーンは,エマとアデルの立場の違いを示唆しているようだ.4_20230805173801
食欲も性欲も旺盛な健康的なアデルだが,エマの反応にすぐ涙ぐんでしまう一面もある.それを演じるアデル・エグザルコプロスが愛らしい.一方,抜けるような笑顔と沈鬱な虚無感を併せ持ち,透明な美貌が印象的なエマ,演じるレア・セドゥが何とも魅力的だ.二人の魅力を丁寧に拾っていくカメラも素敵.
3時間の長編だが,最後まで間断することろなく楽しめた.邦題には若干違和感あり.原題は「アデルの人生」.
★★★★(★5個が満点).
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