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2024年1月に作成された記事

2024/01/30

独断的映画感想文:思い出のマーニー

日記:2024年1月某日
映画「思い出のマーニー」を見る.0_20240205212901
2014年.スタジオ・ジブリ.監督:米林宏昌.
出演(声):高月彩良(杏奈),有村架純(マーニー),松嶋菜々子(頼子),寺島進(大岩清正),根岸季衣(大岩セツ),森山良子(老婦人),吉行和子(ばあや),黒木瞳(久子).6_20240205212901
施設で育ち,現在の養母・頼子と複雑な葛藤を抱えている杏奈は感情をほとんど表に出さない.持病の喘息が悪化し,医者に転地を勧められた杏奈は,夏休みのあいだ頼子の親戚・大岩夫婦の家に預けられる.
大岩夫婦は気さくなたちだったが,杏奈は自分の中にこもったまま絵だけを描いている.湿地の対岸には湿っち屋敷と呼ばれる無人の古い洋館があった.ある夕方,海辺に来た杏奈は,杭につながれたボートに興味を惹かれ乗り込んだ.ボートは湿っち屋敷に漂いつき,そこで杏奈は不思議な少女マーニーに会う.5_20240205212901
マーニーの両親は旅行がちで彼女はばあやと女中と共にここに暮らしているのだという.杏奈はマーニーと次第に打ち解け,たびたび屋敷を訪れるようになるが,地元の子どもたちとは仲良くなれないままだった….4_20240205212901
杏奈のひと夏の経験を通じて得られる,自らのアイデンティティと世界との結びつきの確認の物語.美しいアニメーションだが物語の展開はなかなか複雑で,現在と過去・現実と幻が複雑に交錯し,話の行く末は予断を許さない.
最大の謎マーニーとは何者かという問いの答えは,思いがけず杏奈と海辺で共に絵を描いていた老婦人・久子からもたらされる.それが杏奈と世界の結びつきを明解にし,杏奈は世界を受け入れるのだ.2_20240205212901
物語の実態に現実感はなく,この世のものとは思えないマーニーと杏奈の交流は夢の様で,アニメという表現形態に即している.マーニーにより解放されていく杏奈の心情がいとおしく,感銘を受けた.
★★★☆(★5個が満点).
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2024/01/28

独断的映画感想文:カムイの歌

日記:2024年1月某日
映画「カムイの歌」を見る.1_20240203224501
2023年.監督:菅原浩志.
出演:吉田美月喜(北里テル),望月歩(一三四),島田歌穂(イヌイェマツ),清水美砂(兼田静),加藤雅也(兼田教授),天宮良(小嶋教授),伊藤洋三郎(佐々木原).3_20240203224501
1917年,北里テルはアイヌで初めて女子職業学校に入学する.入試成績が優秀だったテルは担任から副級長に指名されるが,和人の同級生は猛反発し別の生徒を副級長に選出する.以来テルは執拗ないじめと差別を受ける.4_20240203224501
その頃,東京から兼田教授がテルの叔母・イヌイェマツの歌うユーカラを取材に訪れ,「アイヌ民族であることを誇りに思ってください.あなた方は世界に類をみない唯一無二の民族だ」と二人を励ます.2_20240203224501
テルはユーカラをローマ字で記録し日本語訳をつける作業を行い,兼田にその結果を郵送することになる.その結果の素晴らしさに兼田教授はテルに上京を促し,テルは叔母と将来の結婚を約したアイヌ青年・一三四に見送られて旅立つ….5_20240203224501
アイヌ神謡集の著者・知里幸恵をモデルとした物語.映画は北海道の自然,動植物の姿の描写から始まり,それをバックに朗読されるのは,映画の最後でテルが心血を注いで完成させた,アイヌ神謡集の序文だ.この抑制が効きしかしアイヌ民族の自尊の精神をこめた序文をテルが執筆し,またユーカラの日本語訳の推考に打ち込むシーンには胸を打たれる.映画では美しい北海道の自然が折に触れ描かれるが,イヌイェマツ・島田果歩が歌うユーカラもまことに素晴らしい. 19歳で亡くなるテルの最後のシーンも心に残る.俳優は吉田美月喜,島田歌穂,加藤雅也がそれぞれ好演,見応え,聴きごたえのある映画である.
★★★★(★5個が満点).
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2024/01/20

独断的映画感想文:ベイビー・ブローカー

日記:2024年1月某日
映画「ベイビー・ブローカー」を見る.1_20240127222001
2022年.監督・脚本・編集:是枝裕和.
出演:ソン・ガンホ(ハ・サンヒョン),カン・ドンウォン(ユン・ドンス),ペ・ドゥナ(アン・スジン刑事),イ・ジウン(ムン・ソヨン),イ・ジュヨン(イ刑事).3_20240127222101
雨の夜,若い女が乳児を施設の赤ちゃんポストの前の床に置き姿を消す.見張っていたスジン刑事は赤ん坊をポストの中に入れ,部下に女の行方を追うよう指示し,ポストの見張りに戻る.赤ちゃんポストの受付ドンスとサンヒョンは監視カメラの映像を消去し,翌朝赤ん坊をサンヒョンのクリーニング店に連れ帰った.警察の尾行をまいた女・ソヨンは再び施設に戻るが,赤ん坊・ウソンはいない.受付のドンスがソヨンをサンヒョンのもとに連れて行き,自分たちは赤ん坊のブローカーであり,ウソンを裕福な夫婦の養子にあっせんすると説明すると,ソヨンは自分もあっせんに同行すると言い出す.2_20240127222001
一方,赤ん坊の人身売買を追っていたスジン刑事は,現行犯逮捕をするべく彼らを追い続ける.こうして赤ん坊を売る立場のサンヒョン・ドンスと母親のソヨン,赤ん坊のウソン一行と,彼らを追うスジン刑事らの旅が始まる.サンヒョン一行には,ドンスが自分の育った児童養護施設に立ち寄った際,車にもぐりこんだ少年ヘジンも同行することになった.一方スジン刑事のもとには,ソヨンが売春組織の幹部を刺殺した容疑者であることが知らされる….4_20240127222001
最初の養父母候補はウソンにケチをつけて値切ろうとしたために,ソヨンに罵倒されて破談となった.スジン刑事が送り込んだオトリの養父母候補は不妊治療が不首尾との設定で登場するが,ドンスの質問に誤った回答をしたため,転売目的のニセ夫婦とみなされ失敗.その過程で次第に疑似家族の様相を呈していくサンヒョンの一行,オトリ捜査や現行犯逮捕至上の捜査方法に疑問を抱くスジン刑事らが描かれる.
殺された組織幹部の手下たちがサンヒョンに連絡し,またスジン刑事が減刑を考慮してソヨンに自首するよう接触する中,ウソンにとっては理想的な買い手夫婦が現れ,一行はソウルに集合する….5_20240127222001
妻子に捨てられケチな犯罪者として危ない橋を渡るサンヒョン,母に捨てられ施設で育ったドンス,ヘジン,子供を売らざるを得ない立場の犯罪容疑者ソヨンが,次第に互いを理解する過程が印象深い.ホテルの部屋でヘジンにねだられ,暗闇の中一人一人に「生まれてきてありがとう」と声をかけ続けるソヨンのシーンが感銘的.またスジン刑事も,盗聴するサンヒョン一行の和気あいあいさに,次第に心を開いていく.彼らを演じるソン・ガンホ,カン・ドンウォン,ペ・ドゥナ,イ・ジウンの演技がいずれも素晴らしい.ユーモアやペーソスも程よく,結末も共感できる.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点).
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2024/01/15

独断的映画感想文:アイ・アム まきもと

日記:2024年1月某日
映画「アイ・アム まきもと」を見る.1_20240121224401
2022年.監督:水田伸生.
出演:阿部サダヲ(牧本壮),満島ひかり(津森塔子),宇崎竜童(蕪木孝一郎),松下洸平(神代亨),でんでん(下林智之),松尾スズキ(平光啓太),坪倉由幸(我が家)(小野口義久),宮沢りえ(今江みはる),國村隼(槍田幹二).2_20240121224401
庄内市役所お見送り係に勤める牧本は,空気が読めず人の言うことを真に受けるが,誠実な男.市内で孤独死をした人の後処理をするのが仕事だ.事件性のないことが確認されると警察から業務を引き継ぐが,牧本は故人の事情や係累の意向確認などに念を入れるので,常にご遺体を警察に預けっぱなしにして担当刑事の神代には苦情を受けまくる.また牧本が,ご遺体の葬儀を自腹を切って執り行うことも周囲は黙認していた.6_20240121224401
新たに県から天下りで赴任した局長・小野口はそんな牧本の働きぶりに激怒し,お見送り係の廃止を即座に決定,その時点で抱えていた蕪木孝一郎の案件が牧本の最後の担当案件となる.牧本の調査で蕪木には妻と娘のいたこと,かって炭鉱で働き落盤時に救った槍田と云う男がいたこと,漁師町で暮らしそこで女性と同居していたこと,ホームレスと共に暮らしていたことなどが判明する.牧本は娘の塔子を訪ねたが….4_20240121224401
牧本自身は天涯孤独の身らしく,住んでいる家も家具もほとんどない.牧本自身にとって,孤独死の後始末という仕事が唯一の生きがいだったようだ.映画の後半は,蕪木孝一郎の足跡を追う牧本の行動を描く.5_20240121224401
次第に明らかになる蕪木と云う男の人物像,蕪木に捨てられた身としてかたくなだった塔子の心も,牧本の報告を受けて次第に父親としての孝一郎を受け入れるかのようだ.3_20240121224401
牧本を演じる阿部サダヲと塔子を演じる満島ひかりが抜きんでて良いが,周りを固める俳優たちも実力者ぞろいで見応えあり.映画の最後に,牧本が葬儀を出した故人たちが墓所に集うシーンが感動的.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点).
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