独断的映画感想文:わたしの叔父さん
日記:2024年2月某日
映画「わたしの叔父さん」を見る.
2019年.デンマーク映画.監督・脚本・編集・撮影:フラレ・ピーダセン.
出演 イェデ・スナゴー(Kris),ペーダ・ハンセン・テューセン(Onkel),オーレ・キャスパセン(Johannes),チュ・フリスク・ピーターセン(Mike).
舞台はデンマークのユトランド半島.27歳のクリスは足の不自由な叔父と二人暮らし,乳牛を飼い農場を営む.クリスは幼い時に家族を亡くし,独り身だった叔父に引き取られた.高校卒業時に獣医学部に合格していたが,叔父が倒れ進学をあきらめる.以来10年間,朝早く起き叔父の身支度を手伝い,食事を作って酪農の仕事をし,夕食後の珈琲を楽しみ,週一回買い物に行くという,決まりきった日常を過ごしてきた.
ある日乳牛が産気づくが,逆子で分娩は難航.しかし獣医のヨハネス先生が来る前に,クリスは自力で出産させることに成功する.ヨハネス先生はクリスに獣医になる勉強を再開するよう勧め,教科書を貸してくれる.一方家族が葬られている教会の聖歌隊の青年マイクと出会い,デートに誘われる.戸惑いながら生活の変化に向け一歩を踏み出そうとするクリスに,叔父は温かい目を注ぐ….
第32回東京国際映画祭コンペティション部門でグランプリを受賞した映画.酪農という仕事からも叔父の状況からも,家を離れることは基本的にできないと考えるクリス,しかしヨハネス先生の説得で初めてコペンハーゲンに大学の講義を聴きに行くことになる.そのさなかに事件が起きた.
物語の進行の中で,クリスがどんなに叔父を愛し精神的支柱として頼っているかが明らかになってくる.叔父もクリスを心から愛している.マイクがその関係に立ち入ろうとするとき,マイクとの関係まで難しくなっていく.進学も交際もどのように対応してゆけば良いのか,葛藤するクリスの心情が哀切だ.
それらを描く寡黙で淡々とした画面も素晴らしい.映画はクリスの葛藤の中,突然暗転しエンドロールが流れる.クリスと叔父がこれからどうなるのか,観客の想像力にゆだねられる結末.なお,主演のイェデ・スナゴーは叔父役のペーダ・ハンセン・テューセンとは実の姪・叔父の関係.ペーダ・ハンセン・テューセンは俳優でなく酪農家で,舞台となる農場の所有者だそうだ.
★★★★(★5個が満点).
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