独断的映画感想文:霧の中の風景
日記:2024年3月某日
映画「霧の中の風景」を見る.
1988年.監督:テオ・アンゲロプロス.
出演:ミカリス・ゼーナ(アレクサンドロス5歳),タニア・パライオログウ(ヴーラ11歳),ストラトス・ジョルジョグロウ(オレスティス),エヴァ・コタマニドゥ(女優),ヴァシリス・コロヴォス(トラック運転手).字幕翻訳は池澤夏樹.
母子家庭に育つヴーラとアレクサンドロスの姉弟,ドイツにいるという父親にあこがれ,毎夜ドイツ行国際列車の発車するホームに立つ.ある夜遂にその列車に乗り込みドイツを目指す旅に出るが,たちまち無賃乗車として最寄りの駅で降ろされ,警察に送られる.そこを逃げ出し,無賃乗車と徒歩でひたすらドイツを目指す姉弟.途中行き会った旅芸人の一座の若者・オレスティスの車に同乗しさらにドイツを目指すが….
彼らは父親の顔も知らない.父がドイツ人というのは私生児を生んだ母親の嘘だということも,観客は知ることになる.しかし彼らは母を捨て父を求めて艱難辛苦の旅を続ける.この様に非現実的な設定なのに,この映画に冒頭から引き込まれるのは何故だろう.
長回しの奥行ある画面,寡黙な姉弟が手をつないでひたすら前進する経過,オーボエ組曲と呼びたくなるような美しい映画音楽.この映画は,それぞれのエピソードを記述する散文詩をまとめた詩集の様だ.
監督インタビューで監督自身は,この映画はギリシャの姉弟がドイツの父親に会いに出奔したという記事を骨格に,監督が自分の子どもに聞かせていた童話を編みこんだものだと言っているが,この映画は極めて上質な映像による寓話だと思われる.しかし映画というのはこういうものだ!!という感動を禁じ得ない傑作だ.この世の残酷さも美しさもすべてこの中にある.一見の価値あり.
なお,ギリシャ在住経験のある作家池澤夏樹は,とある経緯からアンゲロプロス作品の翻訳・字幕を担当することになった.DVDにある彼による監督インタビューも必見.
★★★★☆(★5個が満点)
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