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2024年7月に作成された記事

2024/07/28

独断的映画感想文:シスター 夏のわかれ道

日記:2024年7月某日
映画「シスター 夏のわかれ道」を見る.1_20240730211701
2021年.監督:イン・ルオシン.
出演:チャン・ツィフォン(アン・ラン),シャオ・ヤン(ウー・ドンフォン),ジュー・ユエンユエン(アン・ロンロン),ダレン・キム(アン・ズーハン).2_20240730211701
冒頭,交通事故現場に呆然とたたずむアン・ラン.別居して暮らしていた両親が交通事故で共に即死したという.事故車に同乗していた幼稚園児の弟は無傷だった.アン・ランは看護師,一人っ子政策下の中国で両親は男子を望み,アン・ランを障害者と偽って第2子出産の許可を得,以来アン・ランは父の姉ロンロンに育てられた.アン・ランは看護師の傍ら,医師になるべく北京の大学院受験の準備に没頭し,同じ病院の医師である彼氏とともに北京に行く約束をしていた.5_20240730211701
初めて会う実の弟ズーハン,親戚はズーハンを育てる責任はアン・ランにありとする.両親がアン・ラン名義に残した住宅にズーハンを引き取っての暮らしが始まるが,ズーハンは小皇帝として育った我が儘いっぱいな子,子育て経験もないアン・ランは振り回され事ごとに衝突する.人生のすべての目的を諦める瀬戸際に追い込まれたアン・ラン,家を売ってその金でズーハンを養子に出し,彼氏とともに北京に行って進学するというプランを実行に移そうとするが,ロンロンは姉は弟の面倒を見るものと言って反対し,彼氏は実母の言いなりで北京に行く気は最初からなかった.一方,ズーハンは次第に姉としてのアン・ランに懐いてくる….3_20240730211701
一人っ子政策の犠牲者たるアン・ランの悪戦苦闘を描くドラマ.両親に捨てられたも同然のアン・ランは独立心旺盛,正義感強く周囲の無理解・不正には強く反発する.そのアン・ランが弟ズーハンに対し下した最終決定は何か.
徹底的に戦い主張し,時に困惑して涙を流すアン・ランを演じるチャン・ツィフォンが魅力的,一方子役ながらズーハンを演じるダレン・キムも達者な芝居で涙を誘う.また,育ての親同然のロンロンを演じるジュー・ユエンユエンも素敵.アン・ランとロンロンがむかし話をしながら西瓜を食べる終盤のシーンは,感銘的だ.4_20240730211701
アン・ランが(そしてもちろんズーハンも)成長していく物語,結末は必ずしもハッピーエンドと言えるかどうかわからないが,二人のたくましい成長が示されるエンディングだ.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2024/07/24

独断的映画感想文:ある男

日記:2024年7月某日
映画「ある男」を見る.5_20240725092801
2022年.監督:石川慶.
出演:妻夫木聡(城戸章良),安藤サクラ(谷口里枝),窪田正孝(谷口大祐/X(ある男)),清野菜名(後藤美涼),眞島秀和(谷口恭一),小籔千豊(中北),坂元愛登(悠人),山口美也子(武本初江),きたろう(伊東),でんでん(小菅),仲野太賀(谷口大祐(本物)),真木よう子(城戸香織),柄本明(小見浦憲男).3_20240725092801
離婚し子どもを連れ故郷の宮崎に戻った里枝,実家の文房具屋に立ち寄る青年:谷口大祐と再婚する.二人のあいだに娘花が生まれ,ささやかながら幸せな日々を送るが,ある日大祐は事故で亡くなる.1周忌のおりに大祐の実家の兄が弔問してくれるが,大祐の写真を見て大祐ではないと言い出す.里枝は前夫との離婚調停を担当した弁護士・城戸に,大祐と名乗った謎の人物”X”の調査を依頼する.
調査の結果,Xは谷口大祐ではないことは確定した.城戸は,「谷口」が大阪にいた時期に戸籍交換の仲介で逮捕され現在服役中の小見浦を,刑務所に訪ねる.小見浦は城戸が在日であることを見抜き揶揄し,谷口の戸籍交換に関わったことを認めつつ,その相手先については口を閉ざした.一方別の手がかりから,城戸はXの父が一家3人惨殺で死刑となった小林健介であることを突き止め,Xが母方の姓・原を名乗ってボクシングに励み,新人王決勝戦にまで至った原誠であることを知る….2_20240725092801
ある種のサスペンス映画と言える本作,決して単純明快な映画ではない.城戸は在日韓国人3世,国籍は日本で妻も日本人だが,常に在日への差別言辞に晒されている.原誠も新人王決勝に臨んだことで,以来死刑囚の子という中傷に晒される.Xに対しては大祐の兄恭一が,里枝の前で平然と遺産目当ての犯罪者と罵る.4_20240725092801
このような状況下,城戸が結論としてXが犯罪者ではなくまっとうに生きてきた原誠であると里枝に告げ,その後里枝と息子・悠人が父のことを語り合うシーンは秀逸.本当の谷口大祐も明らかになり映画は終わるが(大好きな仲野太賀がようやく出てきたが,台詞は「ううっ」だけだった),エピローグの映像は,観客を再度混沌の中に落とし込む.5_20240725092801
映画としての出来は良いが,扱う題材は楽しいものではない.それでも見ごたえのある映画.俳優は揃っていていずれも期待通り.子役ながら坂元愛登が良かった.柄本明の怪演がさすが.控えめだが美しい音楽も素敵.
★★★☆(★5個が満点).
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2024/07/23

独断的映画感想文:ジョン・ウィック:コンセクエンス

日記:2024年7月某日
映画「ジョン・ウィック:コンセクエンス」を見る.00
2023年.監督:チャド・スタエルスキ.
出演:キアヌ・リーヴス(ジョン・ウィック),ドニー・イェン(ケイン),ビル・スカルスガルド(グラモン侯爵),ローレンス・フィッシュバーン(バワリー・キング),真田広之(シマヅ),シャミア・アンダーソン(トラッカー),ランス・レディック(シャロン),リナ・サワヤマ(アキラ),スコット・アドキンス(キーラ),イアン・マクシェーン(ウィンストン).5_20240723185401
いったんは引退しながら裏社会の主席連合の争闘に巻き込まれ,今や掟を破った殺し屋として全組織から狙われる立場となったジョン・ウィック.主席連合の支持を取り付けたグラモン侯爵は,ジョンの旧友ウィンストンをコンチネンタルホテル支配人から追放,ホテルは爆破され崩壊,幾度もジョンを守ってきたコンシェルジュ・シャロンは侯爵に射殺される.侯爵はジョンの親友で引退していた盲目の殺し屋・ケインを呼び出し,娘を殺すと脅迫してジョン暗殺を命じる.1_20240723185401
ジョンは大阪コンチネンタルホテルに旧友のシマヅを訪ねるが,ホテルを主席連合が急襲,抵抗するシマヅ等との激しい戦いとなる.ジョンはケインと戦うが,賞金稼ぎのトラッカーが参入し混戦となってジョンは脱出,シマヅはケインに倒された.3_20240723185401
ニューヨークに戻ったジョンはウィンストンと合流,彼の提案で組織の古来のルールにのっとりグラモン侯爵との一対一の決闘を申し込むことにする.その資格を得るため,自分が属していたファミリー:ルスカ・ロマを訪ねるジョン.リーダーの依頼により,かってファミリーの長を殺した宿敵・キーラを死闘の末倒したジョンは,ファミリーの正式文書を持って主席連合に決闘を申し込む….4_20240723185401
2014年に制作されたジョン・ウィックのシリーズの第4作.絶望的なまでに追い込まれ,知己親友も次々に倒されてゆく中,ジョンに自由への道はあるのか.主席連合は決闘を受け入れたが,侯爵は自分の代理にケインを指名,更に定刻までにジョンが決闘の場所にたどり着けないよう,高額な賞金をアナウンスしパリじゅうの殺し屋がジョンを狩り立てる.2_20240723185401
凄まじい殺人技術で闘いつつ決闘場所を目指すジョン,そこにジョンと正々堂々の決闘をしようとするケイン,他の殺し屋に賞金を渡すまいとするトラッカーがジョンの側に立って参戦する.傷つきながらも決闘場所に着いたジョン,ケインとの決闘を裁定人と侯爵,ウィンストン,そしてトラッカーが見守るがその結末は?0_20240723185401
169分の長尺,しかもその多くが殺し合いシーンという映画だが,アクションシーンの素晴らしさは前3作通り.今回もプロットが予測不能で,最後まで飽きさせることなくぐいぐいと引っ張ってくれる.特にラスト30分の展開は予想外のもので強く印象に残った.エンドロールの後の短いエピローグも心に残る.壮大な悲劇の完結である.
★★★★☆(★5個が満点).
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2024/07/19

独断的映画感想文:生きる LIVING

日記:2024年7月某日
映画「生きる LIVING」を見る.Living1
2022年.監督:オリヴァー・ハーマナス.脚本:カズオ・イシグロ.
出演:ビル・ナイ(ミスター・ウィリアムズ),エイミー・ルー・ウッド(マーガレット),アレックス・シャープ(ピーター),トム・バーク(サザーランド).Living5
ロンドンの市役所に職を得たピーターは今日が初出勤,駅で今日からの同僚と会う.課長のウィリアムズも来るが別の車両だ.仕事が始まると課長を始め仕事は遅々として進まず,他の課からたらいまわしされた仕事は他の課にたらいまわしにするか,塩漬けにするということが繰り返される.ピーターの引き継いだ机にも書類は山積み,向かいの席のマーガレットが,山積み書類のおかげで忙しいふりができるとアドバイスする.Living4
この日珍しく早退したウィリアムズ,病院で主治医から余命半年の末期がんと告げられる.帰宅したウィリアムズは息子夫婦にそのことを告げようとするが,多忙な息子たちは耳を貸そうともせず寝てしまう.翌日ウィリアムズは役所を欠勤,大量の睡眠薬を購入するが使うことなく海辺のカフェーに行き,そこで知り合った不眠に悩む劇作家のサザーランドに睡眠薬をすべて与える.自分は人生の楽しみ方を知らなかったと打ち明けるウィリアムズ,その晩サザーランドの案内で飲み歩く.Living6
ロンドンに戻ったウィリアムズは,しかし出勤することなく街をさすらう.そこで出会ったマーガレットは,事なかれ主義の役所をやめレストランに勤めると云い,ウィリアムズに推薦状を書いてくれるよう求める.その屈託ない態度に魅かれるウィリアムズ,その後マーガレットに映画に付き合ってもらった夜,自身の余命を打ち明ける.マーガレットは同情しつつも,職場に戻るようにと話す.ウィリアムズは憑き物が落ちたように翌日決然と出勤する….Living3
黒澤明監督の1952年の作品「生きる」をカズオ・イシグロの脚本でリメイクした.落ち着いた画面と物静かな音楽が素敵.俳優はビル・ナイが何といっても味わい深い.酔ったウィリアムズがバーのピアニストの伴奏でスコットランド民謡「ナナカマドの木」を歌うシーンは哀切だ.Living2
若い二人を演じるエイミー・ルー・ウッドとアレックス・シャープの明るさ,屈託のなさも魅力的.マーガレットが率直にウィリアムズと話すバーのシーン,ウィリアムズの死の直前公園のブランコで彼を見かけた若い警官が後日ピーターと語り合うシーン,それぞれが印象的だった.
★★★★(★5個が満点)
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2024/07/14

独断的映画感想文:銀平町シネマブルース

日記:2024年7月某日
映画「銀平町シネマブルース」を見る.1_20240717063101
2022年.監督:城定秀夫.出演:近藤猛(小出恵介),梶原啓司(吹越満),佐藤伸夫(宇野祥平),足立エリカ(藤原さくら),大崎美久(日高七海),二ノ宮ハル(谷田ラナ),二ノ宮一果(さとうほなみ),高杉弥生(片岡礼子),桐谷陽子(藤田朋子),黒田新子(浅田美代子),谷口章雄(渡辺裕之).4_20240717063101
近藤猛はあてもなく暮らす風来坊,かって住んだ街の公園で友人と会い借金を申し込むが,断られる.そのすきに全財産の入ったバッグをホームレスの男:佐藤に持ち逃げされる.途方に暮れていると,「NPO法人」を名乗る女に「生活保護を獲得するセミナー」に連れ込まれる.そこに居た佐藤から何とかバッグを取り戻すが,同じくセミナーに参加した梶原に誘われ,彼の経営する映画館「スカラ座」でバイトをすることになる.5_20240717063101
スカラ座は借金で倒産寸前の映画館,常連の売れない俳優,売れないライター,売れないジャズバー経営者,中学生が集まり,スカラ座60周年を機に起死回生のイベントを行おうと相談する.近藤は実はかってそこそこ名の通ったカルト映画監督,しかし妻が主演したゾンビ映画の撮影中,腹心の助監督・高杉が自死したことにショックを受け,以来妻とも離婚し放浪してきた.バッグの中のノートパソコンに,編集未完の映画素材が入っていることを知った梶原は,その映画を起死回生イベントの目玉にするべく,編集作業の完了を近藤に迫る.近藤もかって通い映画監督になる決意を固めたこのスカラ座のために,編集作業に渾身で取り組むが….3_20240717063101
金はないが熱意とそこそこの才能がある映画大好き人間が集まり,映画館を再生するという映画あるある物語.悪い人は「生活保護を獲得するセミナー」関係者以外は出てこない,ほのぼの映画.主演の小出恵介をベテラン実力俳優が盛り立てて,味のある和やかな映画を作り出した.2_20240717063101
映画は登場人物たちのそれぞれの再生を暗示して終わるが,と言って現実の借金が消える訳でもない.この後どうなるかは,元気を取り戻した主人公たちが切り拓いていくのだろう.少しざらついた映像や,落ち着いた映画音楽も含め,映画の楽しさを堪能できる映画.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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