独断的映画感想文:パリタクシー
日記:2024年11月某日
映画「パリタクシー」を見る.
2022年.監督:クリスチャン・カリオン.出演:リーヌ・ルノー(マドレーヌ),ダニー・ブーン(シャルル),アリス・イザーズ(マドレーヌ(若き日)),ジェレミー・ラエルテ(レイモンド・アグノー),ジュリー・デラルム(カリーヌ).
タクシー運転手のシャルル,毎日走り回って家族を支えているが休日は週1日.免許の点数はあと2点しか残っていない.おまけに何か経済的な問題を抱えている様だ.今日もイライラと街を流していると,ある住宅からの迎車要請が入る.行ってみると小さな荷物を持った老婦人マドレーヌが待っていた.
美しい目と銀髪のマドレーヌはもう92歳,今日は長年住んだ家を出て施設に入所するのだという.気さくに語りかけてくるマドレーヌに次第に応答していくシャルル.マドレーヌは回り道をして彼女が生まれた場所に行ってくれと言う.その建物の壁を見上げるマドレーヌ,そこはレジスタンスがナチスに銃殺された場所である旨のプレートが埋めてあり,彼女の父の名と命日が記されていた.やがて彼女は車に戻り,その後の彼女の人生を語りだす.父の死後すぐやって来たアメリカ軍,彼女はアメリカ軍兵士のマットと恋に落ち,マットの帰国後最愛の息子マチューを生んだ.マットからは一度手紙が来たが,彼は結婚し2児の父となっていた.
マドレーヌはシャルルの妻のことも聞く.シャルルの妻カリーヌは高校の同級生で美人,皆が彼女を狙っていたがシャルルは父から借りたカメラでカリーヌのポートレートを撮り彼女の心を得ることに成功,以来ずっと人生のパートナーだ.やがてタクシーは劇場の前を通り,二人は監獄や裁判所の見えるセーヌの橋の上でひと休みする.
マドレーヌは母と共に劇場でお針子として働きレイという溶接工の男と結婚するが,レイはマチューを邪魔者扱いし,マドレーヌに暴力をふるう毎日だった.レイがマチューに手を出した晩,彼女は反撃しレイに重傷を負わせる.マドレーヌは逮捕され,懲役25年の重刑を受けた.模範囚の彼女は13年後釈放されるが,その直後マチューは従軍カメラマンとして赴任したベトナムで命を落とす….
マドレーヌの語る衝撃の人生,その間にも彼女はシャルルにさまざまに話しかけ質問し,シャルルは久し振りに頬を緩ませ,声を出して笑うようになる.とげとげしかったシャルルの心が丸くなっていくのが,眼に見える様だ.マドレーヌは交通検問に引っかかって免停の危機に直面したシャルルを,機転を効かせて救ってくれたりもするのだ.「ひとつの怒りでひとつ歳をとり,ひとつの笑いでひとつ若返るのよ」とマドレーヌは言う.彼女の青い瞳が美しい.そう言えばカリーヌも美しい青い瞳をしていて,シャルルはそれに魅せられたのだった.
思い出をめぐる彼らの旅はすっかり遅くなり,遅くなりついでにシャルルはマドレーヌをディナーに招待する.やがて介護施設に到着,シャルルはまた逢いに来るからと言ってマドレーヌと別れる.シャルルは帰宅し,この一日でマドレーヌがどんなに自分にとって大切な人になったかをカリーヌに話すのだった.物語は思いがけない結末を迎えるが,ラストシーンには涙を禁じ得ない.地味な映画だが,物語がどんどん展開しつつ維持される素敵な緊張感と,マドレーヌの語り口が魅力的で,一気に最後まで見た.映画らしい映画,見て損はなし.
★★★★☆(★5個が満点).
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