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2024年12月に作成された記事

2024/12/30

独断的映画感想文:シビル・ウォー アメリカ最後の日

日記:2024年12月某日
映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を見る.1_20241231153301
2024年.監督:アレックス・ガーランド.
出演:キルステン・ダンスト(リー・スミス),ワグネル・モウラ(ジョエル),ケイリー・スピーニー(ジェシー・カレン),スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン(サミー).2_20241231153301
近未来のアメリカ,政府に反旗を翻した西部勢力(WF)・フロリダ同盟所属の19州が分離独立を表明,激しい内戦が勃発する.政府軍は劣勢でワシントンDC陥落は目前となっている.ニューヨークのベテランカメラマン・リーと記者ジョエルは,大統領への直撃インタビューを狙い,リーの師匠である老記者サミーと駆け出し写真家ジェシーを伴って,ピッツバーグからシャーロッツビルを経由しワシントンDCを目指す旅に出る.5_20241231153301
水も電気も不足するニューヨークは暴動と衝突が続き,路上には死者が横たわる.途上の街はいずれも無政府状態,略奪者を私刑にしてガソリンスタンドを守る武装地元住民や,反政府民兵に処刑される政府軍捕虜,敵の正体も判らぬままにらみあい撃ちあう狙撃兵たち.途上,合流してきた知り合いのアジア系ジャーナリストとジェシーが,軍服を着た所属不明の武装兵に捕まってしまう….3_20241231153301
ジャーナリストの活躍・成長譚を縦軸に構成される映画だが,描かれるのはむき出しの暴力が制圧するアメリカの状況.内戦を戦う正規軍とは別に,無政府状態下,暴力を握るグループが好き放題に好ましくない敵対者・気に入らないマイノリティを殺戮していく.この映画が描く半歩手前の状態までもうアメリカは来ているという感覚が,この映画がヒットする前提にあるのだろう.6_20241231153301
ジェシーを守るために,サミーもリーも命を落とす.ジェシーは生き延び野心に燃える戦場カメラマンになって行く.何とも言えない結末に呆然とする.
★★★☆(★5個が満点)
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2024/12/29

独断的映画感想文:PERFECT DAYS

日記:2024年12月某日
映画「PERFECT DAYS」を見る.Perfect-days0
2023年.監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース.
出演:役所広司(平山),柄本時生(タカシ),中野有紗(ニコ),アオイヤマダ(アヤ),麻生祐未(ケイコ),石川さゆり(ママ),田中泯(ホームレス),三浦友和(友山).Perfect-days3
平山はきわめて寡黙な男,アパートの一室に一人住み暮らす.毎朝決まった時刻に起き,支度してカセットテープを聞きながら軽トラで出勤する.仕事はシフトの相方タカシと分担して幾つかの公衆トイレを清掃することだ.昼休みは近くの神社で昼食を摂り樹々の写真を撮る,仕事が終わると銭湯で汗を流し浅草で一杯飲む.帰宅すると文庫本を読みながら眠りに就く.Perfect-days2
休みの日にはコインランドリーで洗濯し,撮ったフィルムを現像に出しできた現像を受け取る.古本屋に行って文庫本を購入する.馴染みの居酒屋に行って常連客とママさん相手に一杯飲む.判で押したような同じことの続く日々,しかし平山は一つ一つの日常のことに喜びを見出している.Perfect-days1
時には事件が起こるときもあり,タカシが入れあげているガールズバーの女アヤにアタックするための資金をせびられたり,そのタカシが急に仕事を辞め独りで倍の仕事をする羽目になったり,姪のニコが家出してきてアパートに転がり込んだりする….
平山がどういう家庭に育ちなぜ今一人住まいなのか,妻子はいるのか,何時からトイレ清掃を生業としているのか等は一切判らない.家出したニコを迎えに来た妹の話から,平山が父との確執があって家を飛び出し今の生活に入っていることが,僅かに判るのみだ.しかし役所広司の素晴らしい演技から,平山の人生がどういうものかは直に心で理解出来る.Perfect-days4
平山が毎晩見る夢も含め,映像詩のようなカメラが美しい.カセットテープから流れる音楽も良い.冒頭はアニマルズの「朝日のあたる家」,その他オーティス・レディングの「ドック・オブ・ベイ」も素敵.休みの日に行く居酒屋で,ママさんが常連客(あがたもりお)のギターで歌う,浅川マキ版の「朝日樓(朝日のあたる家)」には涙が出た.Perfect-days5
そのママさんの元夫と逢った翌日,いつもの様にカセットテープを聞きながら平山が出勤していく.朝日を浴びながら時に微笑み時に涙ぐみ車を運転していく長回しのラストシーン.まことに映画らしい映画,一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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2024/12/09

独断的映画感想文:川っぺりムコリッタ

日記:2024年12月某日
映画「川っぺりムコリッタ」を見る.1_20241210153901
2021年.監督・脚本・原作:荻上直子.
出演:松山ケンイチ(山田たけし),ムロツヨシ(島田幸三),満島ひかり(南詩織),吉岡秀隆(溝口健一),江口のりこ(中島),柄本佑(堤下靖男),田中美佐子(大橋),笹野高史(運転手),緒形直人(沢田),知久寿焼,薬師丸ひろ子.2_20241210153801
刑務所から出て富山の海辺の町で塩辛工場に就職した山田.社長の沢田はまっすぐな熱血漢,紹介された川っぺりの古いアパート・ムコリッタに落ち着く.入浴していると,隣室の島田が「給湯器が壊れたので風呂を貸してほしい」と言って来るが,断って追い返す.休日に金に余裕のない山田が自室で転がっていると,アパートの空き地で野菜を作っている島田が野菜を差し入れしてくれた.ようやく給料が出て飯を炊き食事をしていると,島田が風呂を貸せと入ってくる.止める間もなく入浴した島田は上がってくると,茶わんと箸を出してそのまま山田の飯を食べ始める.それから彼らはたびたび山田の飯と味噌汁と塩辛,島田の野菜と漬物という食事を共に摂るようになる….3_20241210153801
山田が幼い時両親は離婚,高校生の時に母親は山田を捨てて男と逃げた.山田は食うためにバイトをした結果刑務所に入ることになった.役所から父の死の知らせが届く.父は孤独死で発見され,役所が火葬してくれた.山田は迷った挙句遺骨を引き取るが,遺骨とどう向き合ったものか心は定まらない.アパートには他に,毎日喪服を着て売れない墓石のセールスに歩き回っている溝口親子がおり,また山田は花の手入れをしている老婦人と言葉を交わすが,その人はもう何年も前に亡くなった岡本さんだという.次第にムコリッタの人々と交流できるようになった山田は,両親に捨てられ前科者になった自分を,見つめ直すようになっていく.4_20241210153801
少し調子のおかしな住人たちに彩られた青年の再生の物語.おだやかな画面,降雨や夕焼,虫の声やヤギの鳴き声までが物語を進めていく様で心が癒される.アップの画面を少しずつ角度を変えながら回していくカメラも魅力的.終盤の松山ケンイチと満島ひかりとの長回しのシーンには泣かされる.5_20241210153801
俳優は癖の強い腕利きの役者が揃っていて,見応えあり.薬師丸ひろ子がどこに出ているのかが話題になったが,彼女は「いのちの電話」の担当者で科白のみの出演だった.他に川っぺりに住むホームレスのギター弾きとして「たま」の知久寿焼が出ている.彼は顔は出すが科白はない.蛇足:ムコリッタ(牟呼栗多)とは、仏教における時間の単位のひとつで、1日(24時間)の1/30,48分を意味する言葉.
★★★☆(★5個が満点)
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2024/12/02

独断的映画感想文:ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ

日記:2024年12月某日
映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」を見る.Vs1
2022年.監督:リー・ダニエルズ.
出演:アンドラ・デイ(ビリー・ホリデイ),トレヴァンテ・ローズ(ジミー・フレッチャー),ギャレット・ヘドランド(ハリー・J・アンスリンガー),ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(ロズリン),ローレンス・ワシントン(ミス・フレディ),ロブ・モーガン(ルイス・マッケイ),ナターシャ・リオン(タルーラ・バンクヘッド),トーン・ベル(ジョン・レヴィ),エリック・ラレイ・ハーヴェイ(ジェームズ・モンロー),タイラー・ジェームズ・ウィリアムズ(レスター・ヤング).Vs5
1947年から亡くなる1959年までのビリー・ホリデイを描く.これ以前に彼女は「奇妙な果実」を歌い人気を博していた.公民権運動への影響を恐れた政府は,ビリーの麻薬癖に目を付け,麻薬取締局長官アンスリンガーは黒人捜査官ジミー・フレッチャーを採用してビリーを逮捕するチャンスをうかがう.1947年彼女は麻薬所持で逮捕され,懲役1年の刑を受ける.出所後ビリーはカーネギーホールでのコンサートを成功させたが,ニューヨークでの労働許可証を没収され,ニューヨーク以外で働かざるを得なかった.Vs4
前夫モンローと別れ彼女はジョン.レヴィにマネージメントを任せるが,彼はビリーの稼ぎをほとんど吸い上げ彼女を暴力で制圧した.アンスリンガーの指示でジョン・レヴィはビリーの部屋着に麻薬を仕込み,そこに捜査官が突入してビリーは逮捕されるが,裁判では証拠不十分で無罪となる.ビリーはその後バンドと共にツアーに出るが,ジミー・フレッチャーはアンスリンガーの指示でそのツァーの後をずっとつけていった.元来ビリーに好意を抱いていたジミーは(ビリーの最初の服役時に,自分が彼女の有罪に関与したことを謝罪していた),そのツァー中に彼女と恋仲になる….Vs2
描かれるビリーの苛烈な人生が心に残る.アンスリンガーは終生彼女を付け狙い,彼女の死の床に乗り込むことまでするが,一方彼女の男たちも彼女を支配し搾取する.ジミーとの関係は唯一対等な男女の恋愛として描かれるが,そのジミーと別れビリーは以前のマネージャー:ルイス・マッケイとよりを戻す.ビリーはジミーに,支配し君臨する男でないと不安だと語るのだ.その中で強い信頼感のもとに共演していた,サックス奏者:レスター・ヤングとの友情は印象的だ.彼はビリーが亡くなる4カ月前に亡くなっている.Vs3
主演のアンドラ・デイはR&Bシンガー,初めての演技経験らしいが素晴らしい存在感,歌もまことに見事で聴きごたえたっぷり.映画は正統派伝記映画ではなく脚色された物語となっているようだが,ビリー・ホリデイの生涯の苦闘は感銘的だった.蛇足:題名は原題通りだが,もうちょっと何とかならなかったのだろうか.長すぎるしイマイチぴんと来ない.
★★★★(★5個が満点)
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