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2025/01/24

独断的映画感想文:敵

日記:2025年1月某日
映画「」を見る.1_20250129205601
2023年.監督・脚本:吉田大八.
出演:長塚京三(渡辺儀助),瀧内公美(鷹司靖子),黒沢あすか(渡辺信子),河合優実(菅井歩美),松尾諭,松尾貴史,中島歩,カトウシンスケ,松永大輔.
渡辺儀介は77歳,退職した大学教授で既に妻信子は20年前に亡くなっており子供もいない.庭のある古い住宅に一人住み,家事を完ぺきにこなし時に客を招いて料理でもてなすこともある.講演料や原稿料もわずかにあるが,生活の質は落とさず,預貯金を使い果たしたら自裁しようと考えている.4_20250129205601
教え子の鷹司靖子,椛島光則が時折訪ね,またデザイナーの湯島定一とはバー・「夜間飛行」で飲み交わす仲,「夜間飛行」でマスターの姪・菅井歩美と話すのも楽しみだ.規則正しくそれなりに充実した日々,しかしある日パソコン通信に「北の方から敵が来ると言って皆が逃げはじめています」という記事が載るようになる….
筒井康隆の1998年の小説を,モノクロ映画化した作品.映画の前半は自宅で暮らす儀介の起床,洗面から食事の準備,食事,珈琲,来客等々日々の生活を詳細に描写する.このしっかりした生活を,儀介は死ぬ日まで続けようと思っているのだ.しかしパソコン通信に「敵」が現れるようになった頃から,画面の様子が少しおかしくなる.5_20250129205601
亡き妻・信子がしきりと現れる.ある時は儀介とともに入浴したり,時には来客としてきた鷹司靖子に下心があると非難したりする.あるいは来客として来ていた鷹司靖子が思いがけず儀介に身体を許す.慌ててことに及べば最後の瞬間靖子は消え失せ,夢であることがわかる.パソコン通信の「敵」の記述は続き,ある時は自宅内に真っ黒に汚れた難民がひしめいていたりする.敵とは何か?何が現実で何が妄想なのか.3_20250129205601
この原作を書いた時筒井康隆は63歳だった.63歳の筒井が描いた77歳の儀介の不安のリアルさに驚嘆する.77歳の元大学教授・儀介には様々な不安がある筈だ.自分は元専門家として,教え子(鷹司靖子)や現役の仏文科の学生(菅井歩美)に可笑しなことを喋ってないだろうか?自分は街なかに出るときに妙な格好をしていないだろうか?妙な臭いがしていないだろうか?自慰として処理している自分の性欲は,ひとの知るところとならないだろうか?そのような不安にどう立ち向かえばいいのだ!?2_20250129205601
画面には規則正しく今までの生活を送る儀介の一方で,パジャマにカーディガンを羽織ったままカップラーメンを掻き込む儀介も描かれる.どちらが儀介の妄想なのか?79歳の長塚京三の存在感が素晴らしい.女優陣では瀧内公美,河合優美が素敵.淡々と進むモノクロの画面に共感して映画は終わる.
★★★★(★5個が満点).
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