独断的映画感想文:愛を耕す人
日記:2025年2月某日
新宿ピカデリーで映画「愛を耕す人」を見る.
2023年.監督:ニコライ・アーセル.音楽:ダン・ローマー.
出演:マッツ・ミケルセン(ルドヴィ・ケーレン),アマンダ・コリン(アン・バーバラ),シモン・ベンネビヤウ(フレデリック・デ・シンケル),メリーナ・ハーグベリ(アンマイ・ムス),クリスティン・クヤトゥ・ソープ(エレル),グスタフ・リンド(アントン),ヤコブ・ローマン(トラポー).
18世紀の半ば,ルドヴィ・ケーレンはドイツ陸軍に25年勤め大尉で退任した.故郷のデンマークに戻り,ユトランド半島の未開の荒地を自己資金で開拓すると申し出る.成功報酬は爵位とそれにふさわしい領地・使用人だった.ユトランド半島荒地の開拓は国王の悲願であり,財務省はケーレンに国王決裁の許可を出す.
ケーレンは荒地の各地で土壌の調査を行い,ここと決めた箇所に家を建て「王の家」と名付ける.牧師アントンの斡旋で逃亡小作人のヨハネス,アン・バーバラの夫妻を雇い,また森に住むタタール人の一族を雇って土壌の改良に努める.
一方,この地方の貴族で地方裁判所判事を兼ねるシンケルはケーレンを呼び出し,この地方の未開拓の荒地はすべて自分の領地なので,自分の小作人となる旨の契約書に署名するようケーレンに求める.ケーレンは荒地は国家すなわち国王の所有であり,自分は国王に仕える身だとして,シンケルの要求を一蹴する.これ以降シンケルのケーレンへの攻撃は激化し,逃亡小作人のヨハネスを逮捕して殺害,タタール人の雇用は違法としてタタール人を追放する.ケーレンはアン・バーバラとタタール人の孤児:アンマイ・ムスと共に開拓を続けるが,資金も尽き冬が目前に迫ってきた….
ケーレンには切り札があった.ドイツから取り寄せたジャガイモである.ユトランド半島の荒地でもジャガイモは育つと,ケーレンは確信していた.越冬のさなか種芋を食べ病気のアンマイ・ムスを救おうと言うアン・バーバラを止め,ヤギを屠って種芋を確保したのはケーレンの見識である.ケーレンは開拓1年目の終わりに,国王にジャガイモ80袋を献上することができた.国王はケーレンを測量士に任命し,この地に入植者の派遣を認める.
しかしシンケルは諦めず,犯罪者を雇って入植者を襲わせその子供や多数の家畜を殺害した.更に反撃したケーレンを殺人者として報告,ケーレンはシンケルに逮捕され処刑の危機に直面する….
ケーレンは貴族の使用人であった母親の私生児である.つまり貴族の庶子であるが,貴族自身は認知せずケーレンは軍隊に送られた.ケーレンは爵位を得る手段として開拓を申し出たのだが,思いがけない結果としてアン・バーバラとアンマイ・ムスとで獲得したジャガイモ畑の暮らしは,ケーレンに新しい人生の意義を与えたようだ.
映画の後半,ケーレンは開拓の努力を認められ,爵位を得て新たな入植者受入れの許可も得る.しかしそのすべてをなげうってケーレンはある行動に出る.それは観客全ての共感を得るものだろう.自分はそのシーンに涙を禁じ得なかった.
007映画で活躍したマッツ・ミケルセンの寡黙な演技を始め,俳優陣の好演が素晴らしい.ケーレンの艱難辛苦と真っ向から闘う人生と,アン・バーバラやアンマイ・ムスとの生活を経て,爵位も金も越えて大事なものに命を懸ける人生が心を打つ.ダン・ローマーの音楽も劇的で大好き.まことに骨太な映画で,見応え十分だ.原題のBASTARDENは「私生児」「ロクデナシ」という意味,ケーレン大尉のことでもありシンケルのことでもあるという二重性を持つ.
★★★★☆(★5個が満点).
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