« 2025年2月 | トップページ | 2025年4月 »

2025年3月に作成された記事

2025/03/26

独断的映画感想文:侍タイムスリッパー

日記:2025年3月某日
映画「侍タイムスリッパー」を見る.1_20250327204801
2023年.監督・脚本・撮影:安田淳一.
出演:山口馬木也(高坂新左衛門),冨家ノリマサ(風見恭一郎),沙倉ゆうの(山本優子),峰蘭太郎(殺陣師関本),庄野崎謙(山形彦九郎),紅萬子(住職の妻節子),福田善晴(西経寺住職),井上肇(撮影所所長井上),安藤彰則(斬られ役俳優安藤),田村ツトム(錦京太郎).4_20250327204801
高坂新左衛門は会津藩士,同志と共に長州藩士・山形彦九郎と対決中,雷に打たれ昏倒する.目覚めたところは京都撮影所,オープンセットでの殺陣シーンに紛れ込んだ高坂は助監督・山本優子に叱られ追い出されるが,撮影機材で頭を強打,病院送りとなる.2_20250327204801
病院で気がついた高山は,幕府滅亡から140年経っていることを知り愕然.優子の世話で,奇しくも140年前にその門前で彦九郎と対峙した西経寺に拾われ,寺男として居候となる.やがて撮影所の斬られ役として働きだした高坂は,剣術の腕と真面目な人柄を認められ,殺陣師関本の許しを得て斬られ役集団「剣心会」入門を許される….3_20250327204801
インディーズとして製作され商業劇場で上映されるや人気爆発し,一気に全国チェーンでの上映に拡大した傑作時代劇.とにかく脚本が無茶苦茶に面白い.出だしの雷に打たれタイムスリップという展開はともかく,高坂が出現したのが京都撮影所という経過,一度は時代劇を捨てた大御所・風見恭一郎が時代劇復帰に際し高坂を相手役に指名した謎,クライマックスの高坂・風見の直接対決シーンのド迫力等,映画としての見どころに満ちている.エピローグの落ちも秀逸.5_20250327204801
「10名たらずの自主映画のロケ隊が時代劇の本家、東映京都で撮影を敢行する前代未聞の事態」の中できあがった本作だが,全編が映画愛に満ちていて感動した.助監督役の沙倉ゆうのが,現場では俳優兼任で実際の助監督だったという嘘のような本当の話も,面白い.見て損はなし,お勧めです.
★★★★(★5個が満点).
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

2025/03/24

独断的映画感想文:瞳をとじて

日記:2025年3月某日
映画「瞳をとじて」を見る.
2023年.スペイン.監督:ビクトル・エリセ.1_20250326213001
出演:マノロ・ソロ(ミゲル),ホセ・コロナド(フリオ),アナ・トレント(アナ),マリア・レオン(ベレン),マリオ・パルド(マックス),エレナ・ミケル(マルタ),ホセ・マリア・ポウ(レヴィ).2_20250326213001
映画の冒頭,男が「悲しみの王」という名前の古い邸宅に入ってゆく.屋敷の主,ユダヤ人のレヴィは男・フランクに,昔上海で生まれた自分の娘を探して連れてくるように依頼する.フランクは承知して出発する.
これは「別れのまなざし」という映画の初めのシーン,フランクを演じた俳優・フリオはこの映画の撮影中に突然失踪し,以降姿を現さなかった,もう22年前の話だ.監督第2作目の「別れのまなざし」が打ち切りとなり,以後二度と映画を撮らなかった監督・ミゲルはフリオの親友.TV局の「未解決事件」という番組でこの件を取り上げることになり,ミゲルは担当プロデューサー・マルタと会う.4_20250326213001
番組のためにフリオの一人娘・アナや,当時の編集担当者で旧友のマックスと会い,フリオと共に過ごした若い頃や自分の来し方を追想するミゲル.番組がオンエアされると,フリオと似た男が高齢者施設にいるとの情報が寄せられた….5_20250326213001
中盤までフリオはどうなったのかに焦点があてられるミステリ仕立ての映画.ミゲルとフリオは水兵時代からの親友で,一緒に刑務所に入ったこともある.女と酒を切らすことのなかった人気俳優フリオは,なぜ撮影中に失踪したのか.後半の焦点は高齢者施設にいた男・ガルデルはフリオなのかどうか.ミゲルはアナをガルデルに面会させ,更にマックスの協力を得て「別れのまなざし」の上映会を開く….3_20250326213001
映画の中で映画が撮影され上映されるメタ構造の映画.長く映画を撮っていないミゲルの追想は,本作監督エリセの追想と重なる.演じる俳優がそれぞれ存在感があって魅力的.またその俳優の貌がアップで強調されるカメラワークも素敵だ.6_20250326213001
ゆっくり進む物語,程よい各エピソードの紹介,伏線が回収されていくが最後の結論は観客に投げかける構造,映画というものの魅力が詰まった好編である.特にプロローグとエピローグに使われる「別れのまなざし」の映像はまことに魅力的.2時間半を超える長尺だが一気に見た.映画らしい映画,お勧めです.
★★★★(★5個が満点).
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

2025/03/05

独断的映画感想文:名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN

日記:2025年3月某日
映画「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」を見る.A-complete-unknown1
2024年.監督:ジェームズ・マンゴールド.
出演:ティモシー・シャラメ(ボブ・ディラン),エドワード・ノートン(ピート・シガー),エル・ファニング(シルヴィ・ルッソ),モニカ・バルバロ(ジョーン・バエズ),ボイド・ホルブルック(ジョニー・キャッシュ),ダン・フォグラー(アルバート・グロスマン),ノーバート・レオ・バッツ(アラン・ローマックス),スクート・マクネイリー(ウディ・ガスリー).A-complete-unknown3
1960年から1965年までのボブ・ディランを描く.この時期のディランを描いた映画には,既にマーティン・スコセッシ監督の3時間半にわたるドキュメンタリー映画「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム」がある.本作は歴史的事実を追ったものではなく,ひたすら詩人でありミュージシャンであり続けようとしたディランの,60年代前半の愛と音楽の物語と言えようか.A-complete-unknown2
映画はN.Y.に出てきたディランが憧れのウディ・ガスリー,ピート・シガーと出会うところから始まる.俳優自身によって歌われるこの時期の音楽が懐かしく素晴らしい.ピート・シガーがライブで聴衆と共に歌う「ライオンは眠っている」も素敵だったが,ディランになり切って唄い演奏するティモシー・シャラメがとにかく最高.ジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロも素晴らしい.A-complete-unknown4
時代背景のキューバ危機,ワシントン大行進,ベトナム戦争,ケネディ大統領暗殺等もバランスよい緊張感で描かれ,ディランがフォークアイドルからミュージッシャンとして飛躍を遂げようとする意志と,フォーク原理主義者ともいうべき人達との葛藤がよく理解できる. 1965年7月のニューポート・フォーク・フェスティバルの迫力ある経過は,クライマックスに相応しく,その後のウディ・ガスリーとのエピローグに泣かされた.見ごたえある映画.A-complete-unknown5
★★★★☆(★5個が満点).
蛇足:この映画の題名も,マーティン・スコセッシのドキュメンタリーの題名も,名曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」から取られている.最後にこの曲のリフレインの歌詞を載せてボブ・ディランに敬意を表しておこう.
How does it feel, how does it feel?
To be on your own,
with no direction home
a complete unknown,
like a rolling stone
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

2025/03/03

独断的映画感想文:コット、はじまりの夏

日記:2025年3月某日
映画「コット、はじまりの夏」を見る.1_20250305203601
2022年アイルランド映画.監督・脚本:コルム・バレード.
出演:キャリー・クロウリー(アイリン),アンドリュー・ベネット(ショーン),キャサリン・クリンチ(コット),マイケル・パトリック(ダン).
アイルランドの片田舎,コットは貧しい農家の四女.弟はまだ小さいうえ母親は臨月,コットは親からも姉たちからもかまってもらえない.9歳のコットは口数も少なく,未だおねしょもしている.学校でも友達に馴染めず,コットは居場所がなかった.2_20250305203601
いよいよ母親の出産が近づき,夏休みの間コットは母の従兄妹・アイリンとショーンの夫妻に預けられることになる.車でコットを送ってきた父は,その日の賭けに夢中で上の空,コットの着替えを渡すのも忘れて去ってしまった.アイリン夫妻には子供がいない.かって居た男の子の部屋が寝室となり,コットは暫く少年の服を着替えに着ることになる.アイリンがコットをお風呂に入れてくれ,ほったらかしの髪も梳いてくれた.おねしょも治り,コットは農家の手伝いをしながら次第にこの家に馴染んでいく….3_20250305203601
父親は酒好きの博打好き,農作業もとかくおろそかになり子どもたちへの愛情も感じられない.子だくさんで貧しい家庭は,騒然として風が吹き抜ける様だ.
アイリン夫妻は勤勉で物静か,お互いを思いやる様子が見て取れる.コットは本もつづりを教わりながら読むようになり,自分というものを考えるようになる.コットは元来寡黙だが,アイリン夫妻も物静か,映画自体も寡黙なうちに映像がいろいろなことを明らかにしていく.4_20250305203701
アイリン夫妻のいまはいない男の子は事故で亡くなったのだった.アイリン夫妻はそのことに触れないが,近所で葬儀のあった日,コットと二人きりになった近くのお喋りの主婦がコットとアイリン夫妻の生活を根掘り葉掘り尋ねたうえ,男の子が事故死したことを言ってしまう.どんな事故だったかまで話して聞かせたのだった.そのことを知ったアイリンは打ちのめされ,部屋から出てこない.ショーンは寡黙なのは良いことだとコットに言う.5_20250305203601
映画は寡黙なコットがそのアイデンティティを得て成長していく様子を,しずかに描いていく.映画のラストシーン,夏休みが終わり実家に帰ったコットが,アイリン夫妻に別れを告げる場面が忘れられない.原題はTHE QUIET GIRL,しかし邦題も悪くない.
★★★★(★5個が満点).
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

« 2025年2月 | トップページ | 2025年4月 »