独断的映画感想文:コット、はじまりの夏
日記:2025年3月某日
映画「コット、はじまりの夏」を見る.
2022年アイルランド映画.監督・脚本:コルム・バレード.
出演:キャリー・クロウリー(アイリン),アンドリュー・ベネット(ショーン),キャサリン・クリンチ(コット),マイケル・パトリック(ダン).
アイルランドの片田舎,コットは貧しい農家の四女.弟はまだ小さいうえ母親は臨月,コットは親からも姉たちからもかまってもらえない.9歳のコットは口数も少なく,未だおねしょもしている.学校でも友達に馴染めず,コットは居場所がなかった.
いよいよ母親の出産が近づき,夏休みの間コットは母の従兄妹・アイリンとショーンの夫妻に預けられることになる.車でコットを送ってきた父は,その日の賭けに夢中で上の空,コットの着替えを渡すのも忘れて去ってしまった.アイリン夫妻には子供がいない.かって居た男の子の部屋が寝室となり,コットは暫く少年の服を着替えに着ることになる.アイリンがコットをお風呂に入れてくれ,ほったらかしの髪も梳いてくれた.おねしょも治り,コットは農家の手伝いをしながら次第にこの家に馴染んでいく….
父親は酒好きの博打好き,農作業もとかくおろそかになり子どもたちへの愛情も感じられない.子だくさんで貧しい家庭は,騒然として風が吹き抜ける様だ.
アイリン夫妻は勤勉で物静か,お互いを思いやる様子が見て取れる.コットは本もつづりを教わりながら読むようになり,自分というものを考えるようになる.コットは元来寡黙だが,アイリン夫妻も物静か,映画自体も寡黙なうちに映像がいろいろなことを明らかにしていく.
アイリン夫妻のいまはいない男の子は事故で亡くなったのだった.アイリン夫妻はそのことに触れないが,近所で葬儀のあった日,コットと二人きりになった近くのお喋りの主婦がコットとアイリン夫妻の生活を根掘り葉掘り尋ねたうえ,男の子が事故死したことを言ってしまう.どんな事故だったかまで話して聞かせたのだった.そのことを知ったアイリンは打ちのめされ,部屋から出てこない.ショーンは寡黙なのは良いことだとコットに言う.
映画は寡黙なコットがそのアイデンティティを得て成長していく様子を,しずかに描いていく.映画のラストシーン,夏休みが終わり実家に帰ったコットが,アイリン夫妻に別れを告げる場面が忘れられない.原題はTHE QUIET GIRL,しかし邦題も悪くない.
★★★★(★5個が満点).
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