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2025年4月に作成された記事

2025/04/29

独断的映画感想文:落下の解剖学

日記:2025年4月某日
映画「落下の解剖学」を見る.1_20250502164901
2023年,フランス.監督:ジュスティーヌ・トリエ.
出演:ザンドラ・ヒュラー(サンドラ),スワン・アルロー(ヴァンサン),ミロ・マシャド・グラネール(ダニエル),アントワーヌ・レナルツ(検事),サミュエル・タイス(サミュエル),ジェニー・ベス(マージ).
映画の冒頭,雪に覆われたグルノーブル山麓の家で,作家・サンドラが学生のインタビューを受けている.ところが耳を聾するほどの大音響の音楽が聞こえてきて,インタビューどころではない.夫サミュエルが屋根裏で作業をしているのだと云う.学生は諦めて帰って行った.息子ダニエルは犬のスヌープを連れて散歩に行く.帰ってくるとサミュエルが血塗れで家の前に倒れている.音楽はまだ鳴り続けている.ダニエルの叫び声にサンドラが飛び出してくるが,サミュエルはすでに死んでいた.4_20250502165001
この様に始まるミステリー,サンドラはサミュエル殺害の容疑で訴追され,法廷に立つことになる.サミュエルの死因については検察は左額の打撲が致命傷とし,鈍器で殴られたと主張するが凶器は見つかっていない.一方サンドラの弁護士・ヴァンサンが依頼した鑑定人は,物置の壁の血痕が残るにはベランダからはるかに乗り出して打撲を受ける必要があり,サンドラにはなし得ないと主張.額の打撲は転落時に物置のひさしに激突したためであり,そこにDNAが無かったのは日差で融けた雪に流されたためと主張する.5_20250502164901
検察はサミュエルのPCから入手した情報を法廷で公開,サンドラがバイセクシャルで過去に浮気して女性と寝たこと,サミュエルが録音していた事件前夜の激しい夫婦げんかの内容を暴露する.法廷はダニエルの証言を最後に終結するが,判決はどうなるのか….
この映画は事件の真相を明らかにするものではない.サミュエルの事件は殺人・転落事故・自殺のどれであるかは,結局明らかにされなかった.サンドラはドイツ人ですでに売れている作家,サミュエルはフランス人で小説修行中の教員.一家は最近夫の故郷グルノーブルに移ってきた.ダニエルはバイクにはねられた事故で視覚障がい者となった.そのことについてサミュエルは責任を感じている.2_20250502164901
これらの状況から考えると,サンドラがサミュエルを殺害する理由は乏しいように思える.前日激しいいさかいを起こしたからと云って当日サンドラが激昂する必然性はない.検察の主張は余りにも主観的である.そもそも視覚障がい者のダニエルと暮らしながら,耳を聾するような音量で音楽をかけるサミュエルには,幼児性さえ感じられる.
むしろこの映画はダニエルの映画であろう.連日傍聴し証言をすべて耳にしたダニエル,父と母の実像を知りそれをどう受け入れるのか.自身の証言の前夜,何が真実か判らないというダニエルに,裁判所から派遣されてきてダニエルに付き添うマージが次のように助言する.「どちらが真実か判らないときは,一方を信じると心に決めるの」.その言葉に従ってダニエルの下した結論には,共感できる.3_20250502164901
緊張感高く,スリリングな映画,長尺だが最後まで一気に見た.劇中(ダニエルが弾くのだ)とエンドロールで流されるショパンの前奏曲op28第4番が美しい.★★★★(★5個が満点).
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2025/04/03

独断的映画感想文:52ヘルツのクジラたち

日記:2025年4月某日
映画「52ヘルツのクジラたち」を見る.1_20250413183201
2024年.監督:成島出.原作:町田そのこ.
出演:杉咲花(三島貴瑚),志尊淳(岡田安吾),宮沢氷魚(新名主税),小野花梨(牧岡美晴),桑名桃李(少年),金子大地(村中真帆),西野七瀬(品城琴美),真飛聖(三島由紀),池谷のぶえ(藤江),余貴美子(岡田典子),倍賞美津子(村中サチエ).2_20250413183201
三島貴瑚は大分の亡き祖母の家に独り移り住んできた.ある日海を見に行った帰りに倒れてしまう.彼女に傘をさしかけてくれた口をきかない少年を家に連れて帰るが,少年には体中にあざがあった.4_20250413183201
喜瑚は再婚した母親の連れ子として,養父にも実母にも虐待されて育つ.高校卒業後は,倒れた養父の介護を3年間一人で担い,疲れ果て死を覚悟して歩いていたところを,高校時代の親友:牧岡美晴とその同僚:岡田安吾に救われる.安吾は親身に貴瑚を養父・実母のもとから救い出し,自立の環境を整える.社会人として自立した貴瑚は,勤め先の専務で社長の息子:新名主税と付き合うようになるが….5_20250413183201
町田そのこの2021年本屋大賞受賞作を映画化,題名は,「52ヘルツという高音で鳴くため仲間に気付いてもらえないクジラ」から取られている.児童虐待,介護の他,トランスジェンダーや性的ハラスメント等の諸問題が取り扱われている.3_20250413183201
物語はかなり複雑で映画的にはもう少し整理が欲しいところ,しかし主演の杉咲花と志尊淳が素敵.また,老齢の登場人物を演じる余貴美子と倍賞美津子も良かった.海と人物を魅力的に取るカメラも良い.
★★★☆(★5個が満点).
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