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2025年5月に作成された記事

2025/05/30

独断的映画感想文:ヤジと民主主義 劇場拡大版

日記:2025年5月某日
映画「ヤジと民主主義 劇場拡大版」を見る.Photo_20250602213501
2023年.監督:山崎裕侍.ナレーション:落合恵子.
2019年7月15日,札幌で遊説中の安倍晋三首相(当時)に向けヤジを飛ばした市民複数が,警官・私服刑事らにより拘束され現場から排除された.また安倍政権に抗議するサインボードを持った市民が警官らに包囲され,安倍首相の視界に入らないよう規制された.本件は各方面から北海道警への抗議を呼んだが,道警は適法との立場をとり,ヤジを飛ばした市民2名が北海道を相手に国家賠償を求める裁判を起こした.この映画は本件を取材したHBCのドキュメンタリーの,劇場映画版である….3_20250602213501
訴訟を起こした大杉氏は,第1現場でヤジを飛ばしたところ横にいた自民党員に小突かれ,直後に警官らによって排除された.これを道警は,大杉氏に警職法4条1項(なんらかの危険があって当人を守るために必要があるときは、警察官が必要な限度で当人を引き留め、移動させることができる)を適用したとした.一方第2の現場で大杉氏を拘束・排除したのは,大杉氏が街宣車に近づこうとし右手を前に突き出した行為に対し,警職法5条(犯罪など他者に危害・損害を与えるおそれのある行為が行われようとしているときで、急を要する時には、警察官がその行為を制止することができる)の適用とした.もう一人の桃井氏は,ヤジを叫んでいたことに対し警職法4条1項を適用したとした.4_20250602213501
映像はHBCの取材映像と2人のスマホの映像だが,これによると大杉氏は第1現場では数人がかりで羽交い絞めにされ,後ろ向きのまま排除されている.小突いた方の自民党員が注意され或いは規制された様子はない.第2現場では警察官が大杉氏に「迷惑だからヤジをやめろ」と発言しており,犯罪行為を予測していないことは明らかだ.桃井氏に対しては警官らが両手を掴んで排除した後,桃井氏に長時間付きまといその行動を規制している.一見して事実関係は道警による首相演説へのヤジに対する強制排除ということが明らかである.5_20250602213601
警察の立場として,首相の来訪に対し治安維持のためヤジも含めて取り締まった,ということはありうるだろう.しかし映像に残った警察の行為は明らかに違法だ.札幌地裁判決は大杉氏,桃井氏の全面勝訴となった.ところが高裁は上記の北海道警の屁理屈をそのまま認め,大杉さんの訴えは棄却とした.問題は道警が違法警備を報道陣のカメラの前で公然と行ったこと,高裁が道警の屁理屈を認めたことにあると思われる.元道警の警備担当者がインタビューで,「道警はマスメディアが道警に不利な報道をする訳がないと,舐めているんです」と語っている.この映画とTVドキュメンタリーは,HBCのそれに対する答えだ.そういうものとしての緊張感ある映像が印象的.一見の価値あり.2_20250602213601
★★★★(★5個が満点).
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2025/05/27

独断的映画感想文:止められるか、俺たちを

日記:2025年5月某日
映画「止められるか、俺たちを」を見る.1_20250531153201
2018年.監督:白石和彌.音楽:曽我部恵一.
出演:門脇麦(吉積めぐみ),井浦新(若松孝二),山本浩司(足立正生),岡部尚(沖島勲),大西信満(大和屋竺),タモト清嵐(秋山道男(オバケ)),毎熊克哉(小水一男(ガイラ)),満島真之介,渋川清彦,高岡蒼佑(大島渚),高良健吾,寺島しのぶ(前田のママ),奥田瑛二(葛井欣士郎).2_20250531153201
事実に基づく映画.1969年3月から1971年9月までの若松プロダクションの軌跡を,新入りの女性助監督めぐみを中心に描く.若松監督は元ヤクザのチンピラ,気が荒く短い.暴力的で金にうるさい.現場では喧嘩腰で,しくじったスタッフは出ていけと罵倒される.
若松は70年安保前後の疾風怒濤の時代を背景に,低予算ながら迫力ある映像のピンク映画を量産し好評を得た.1971年カンヌ国際映画祭の帰路パレスチナへ渡り,パレスチナゲリラとともに軍事訓練を受けると同時に,『赤軍-PFLP 世界戦争宣言』を足立正生と共に制作し,帰国後はその上映運動に奔走する….3_20250531153201
めぐみは若松組の撮影現場の厳しさに耐えながら2年後にはチーフ助監督を務めるようになる.スタッフには頼りにされながらも,映画監督として自身は何を目指すのかが見えないまま,政治にのめり込んでいく若松との距離も感じていた….5_20250531153201
本作の監督は若松組出身の白石和彌,若松監督役は,やはり若松組の井浦新,めぐみ役の門脇麦も好演.めぐみが初めて生い立ちや映画への思いを語るシーン,睡眠薬を飲んで母親に電話をかけるシーンなどが感銘的だ.またクレジットのない役に錚々たる俳優たちが名を連ねる.4_20250531153201
この当時の沸き立つような高揚感,ひりひりする疾走感とともに描かれていく撮影現場や東京の街並み,人びとの交流が印象的,1970年前後の時代の匂いがするようだ.若松孝二という人の熱さ・迫力を改めて感じた.曽我部恵一の音楽も素敵.
★★★★(★5個が満点).
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2025/05/26

独断的映画感想文:オッペンハイマー

日記:2025年5月某日
映画「オッペンハイマー」を見る.1_20250528175501
2023年.アメリカ.監督・脚本:クリストファー・ノーラン.
出演:キリアン・マーフィ(J・ロバート・オッペンハイマー),エミリー・ブラント(キティ・オッペンハイマー),マット・デイモン(レズリー・グローヴス),ロバート・ダウニー・Jr(ルイス・ストローズ),フローレンス・ピュー(ジーン・タトロック),ジョシュ・ハートネット(アーネスト・ローレンス),ケイシー・アフレック(ボリス・パッシュ),ラミ・マレック(デヴィッド・L・ヒル),ケネス・ブラナー(ニールス・ボーア),トム・コンティ(アルベルト・アインシュタイン),ゲイリー・オールドマン(ハリー・トルーマン).2_20250528175501
映画の冒頭,1920年代.原子核の不思議に魅了される若きオッペンハイマー.ヨーロッパの大学でニールス・ボーア,ハイゼンベルクら当時の最高の物理学者の指導を受け,理論物理学者としての名声を勝ち得て行く.1930年代,アメリカに戻ったオッペンハイマーは量子力学の講座を開き,学生は徐々に増えていった.
一方オッペンハイマーは弟に誘われて共産党や組合活動のグループと付き合うようになり,恋人ジーンや後に結婚するキティも共産党員だった.1942年,グローヴス大佐の訪問を受けたオッペンハイマーは,原爆開発の国家計画(マンハッタン計画)への参加を要請される.オッペンハイマーは自身の出身地に近いロス・アラモスの砂漠に新たな町を作り,全米から最高の科学者を集めて原爆開発に没頭することになる….3_20250528175501
映画は重層的な構造を持って進行する.一つは経時的な事態の経過を描き,一方で1954年,アメリカ原子力委員の資格更新をめぐる聴聞会でのオッペンハイマーへの厳しい追及と証人及び本人の回答を描く.最後に白黒の画面で1959年の米国商務長官に指名されたストローズの公聴会の模様を描く.ストローズは1947年にオッペンハイマーを原子力委員会顧問・プリンストン研究所長に招聘した責任者だった.4_20250528175501
オッペンハイマーは優れた科学者であり感受性に満ちた指導者でもあったが,自身の思想信条についてはあけっぴろげ,女性との付き合いは奔放,敵を作る結果となることに無頓着だった.映画はそのようなオッペンハイマーが苦心の末マンハッタン計画を成功させる姿を描く.オッペンハイマーは一躍国民的英雄となったが,一方戦後の冷戦構造の中で政府や軍部における権謀術数の渦に巻き込まれてゆく.その渦中でのオッペンハイマーと妻キティの悪戦苦闘,誰が味方で誰が敵かも判らない政争,そしてマンハッタン計画が実現してしまった核戦争世界への科学者としての苦悩が描かれてゆく.5_20250528175501
個人的にはドイツが降伏したのに日本に原爆を落とす必要があるのか,という科学者たちの論争が印象的.結局軍部の原爆投下が日本の降伏を早めるだろうという主張通りになったのだが,確かに日本の指導者は原爆が投下されなければ8月15日に無条件降伏はしなかったかもしれない.3時間に及ぶ重厚な映画だが,実に見応えあり.
★★★★(★5個が満点).
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2025/05/13

独断的映画感想文:君たちはどう生きるか

日記:2025年5月某日
映画「君たちはどう生きるか」を見る.1_20250520175001
2023年.監督・脚本・原作:宮崎駿.
出演(声):山時聡真(牧眞人),菅田将暉(青サギ・サギ男),柴咲コウ(キリコ),あいみょん(ヒミ),木村佳乃(夏子),木村拓哉(勝一),滝沢カレン(ワラワラ),竹下景子(いずみ),風吹ジュン(うたこ),阿川佐和子(えりこ),大竹しのぶ(あいこ),國村隼(インコ大王),小林薫(老ペリカン),火野正平(大伯父).2_20250520175001
空襲による病院の炎上で母親を失った眞人は,軍用機製作に従事する父に従い母の実家に疎開する.その時父はすでに母の妹・夏子と暮らしていて,夏子は身ごもっていた.疎開先の学校の子らに受け入れられなかった眞人は,自らを傷つけ登校をやめてしまう.
屋敷の池に来る青サギは眞人の生活を覗き見し,眞人を屋敷の古い塔に誘う.眞人の大伯父は以前この塔に入ったまま忽然と姿を消し,母は塔の付近で行方不明になったが,暫くして突然元気な姿で現れた.ある日夏子が姿を消す.夏子が塔に向かう姿を見かけた眞人は老女中キリコと共に塔に入り,夏子を探すことになる.4_20250520175001
塔から入り込んだ「下の世界」では若きキリコに出会い共に生活するうち,謎の少女ヒミに遭遇する.眞人はヒミの協力を得て夏子を探す中,この世界を創造した大伯父に会うことができた….
本編は,1937年に吉野源三郎が書いた小説「君たちはどう生きるか」が原作ではない.映画の中で亡き母が眞人に送った本の中に「君たちはどう生きるか」が出てくるが,映画の原作は宮崎駿である.3_20250520175001
印象的なのは,眞人のまっすぐな性格と行動力だ.わずかにベッドの中で母のために涙を流すシーンがある他は,彼はほとんど感情を露わにすることなく,何事もためらわずに突き進んでゆく.この行動力は母譲りなのか.大伯父が創造し今や風前の灯火となっている「下の世界」の精神を引き継ぎ,夏子とともに元の世界に戻る決意をする過程が,まさに「君たちはどう生きるか」のテーマなのであろう.ジブリ世界らしいエピソードに溢れた好編,次々に展開する内容に最後まで引き込まれそれを楽しんだ.5_20250520175001
★★★☆(★5個が満点).
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