独断的映画感想文:千夜、一夜
日記:2025年6月某日
映画「千夜、一夜」を見る.
2022年.日本.監督:久保田直.
出演:田中裕子(若松登美子),尾野真千子(田村奈美),安藤政信(田村洋司),ダンカン(藤倉春男),白石加代子(藤倉千代),平泉成(若松俊雄),小倉久寛(入江春弼).
佐渡の漁港の水産工場で働く登美子,夫は失踪したまま未だに行方が分からない.拉致されたのではないかとの観測もある中,登美子はビラを配ったりできる限りの活動をしてきたが,何も判らぬまま30年がたった.同じ漁港で漁師をしている春男は,ずっと登美子と所帯を持ちたいと云ってきているが,登美子は応じることはない.
同じ街の病院に勤める奈美も2年前に教師だった夫が失踪した.奈美の相談に応じ,登美子は事情を詳しく聞き捜索に協力する.奈美は夫の失踪の理由を見出し,自身のけじめをつけたいと考えている.一方登美子は,夫の母親の葬儀に訪れた本土の町で,思いがけず奈美の夫・洋治を見かけ佐渡に連れ帰るが….
登美子はいまだに夫の肉声が録音されているカセットテープを,繰り返し再生して聞いている.登美子の亡き父は,戦争から帰ってからは人が変わり,登美子を認めずその結婚も許さなかった.登美子には父への激しい反感が今もある.春男をめぐっては,その母(白石加代子)や漁協の幹部らが,いい加減に春男を受け入れよと説得するが登美子は受け容れず,春男は自分の小舟に乗って失踪してしまう.一方奈美は,病院の後輩職員から思いを寄せられ,彼との生活に傾きつつある.
失踪した男を待つ女の葛藤を演じる女優二人が秀逸.特に田中裕子の演技は素晴らしい.帰宅したが奈美に追い出され,雨の夜に登美子の家を尋ねた洋治を受け入れた晩,一瞬洋治を夫と混同する場面の登美子は迫力がある.実母の葬儀で天涯孤独となった登美子が(喪主側の席には登美子以外誰もいない),棺に実母が保管していた父親の義足を入れようとして(「これも持って行ってもらおうと思った」)火葬場に断られるシーンのおかしさも素敵だ.春男を演じるダンカンは,こんな男と所帯を持つのは絶対嫌だと思わせる迫真の演技が良かった.
プロットには必ずしも共感しない部分はあるが,俳優陣の演技に満足.
★★★☆(★5個が満点).
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