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2026年2月に作成された記事

2026/02/22

独断的映画感想文:ビーキーパー

日記:2026年2月某日
映画「ビーキーパー」を見る.1_20260302105501
2024年.アメリカ/イギリス.監督デヴィッド・エア.
出演:ジェイソン・ステイサム(アダム・クレイ),エミー・レイヴァー=ランプマン(ヴェローナ・パーカー),ジョシュ・ハッチャーソン(デレク・ダンフォース),ボビー・ナデリ(マット・ワイリー),ミニー・ドライヴァー(ジャネット・ハワード),フィリシア・ラシャド(エロイーズ・パーカー),ジェレミー・アイアンズ(ウォレス・ウエストワイルド).2_20260302105501
養蜂家のクレイは,自分を受け入れ納屋を貸してくれた隣人エロイーズに,深い敬意を払っている.ところがエロイーズはある晩フィッシング詐欺に引っかかり,自身の財産と管理していた慈善団体の資産を一瞬にして失ってしまう.エロイーズは失意のうちに自殺するが,事件現場をたまたま訪れたクレイはエロイーズの娘でFBIのヴェローナに逮捕される.しかし自殺であることが明らかになりクレイは釈放,更にフィッシング詐欺にあったことも判明する.4_20260302105501
クレイは実は元「ビーキーパー(養蜂家)」と呼ばれる秘密組織の凄腕の工作員,FBIの担当者が探しあぐねた詐欺集団の実態をビーキーパーの助けを借りて突き止め,詐欺組織UDGの拠点ビルに乗り込む.警備員を倒し本拠地のビルを炎上させたクレイ,UDGの上部団体ダンフォース・エンタープライズCEOデレクの指示で養蜂場が急襲されるが,クレイは返り討ちにしてダンフォース傘下の中核企業を襲う….3_20260302105601
まあとにかく強いジェイソン・ステイサムのアクションを楽しむ映画.ビーキーパーの実態は荒唐無稽なものだが,その工作員としてのクレイが持つ原則的観点がはっきりしていて面白い.ダンフォース等との争闘でも,警備する中の金で雇われた私兵には容赦はないが,FBI等の公的機関の要員の命は取らない.善と悪がはっきりし過ぎて,そういう点では深みはない.ジェレミー・アイアンもこんな役をしていてはつまらないな.5_20260302105501
★★★(★5個が満点).
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2026/02/14

独断的映画感想文:斬る(1962)

日記:2026年2月某日
映画「斬る」を見る.1_20260302091801
1962年.日本.監督:三隅研次.脚色:新藤兼人.原作:柴田錬三郎.
出演:市川雷蔵(高倉信吾),藤村志保(山口藤子),渚まゆみ(高倉芳尾),万里昌代(田所佐代),成田純一郎(田所主水),丹羽又三郎(千葉栄次郎),友田輝(庄司嘉兵衛),柳永二郎(松平大炊頭),天知茂(多田草司).
映画の冒頭は,侍女藤子による飯田藩主愛妾殺しの場.飯田藩主愛妾は政治に介入をし,城代家老の密命で藤子が愛妾を刺殺したのだった.藤子は処刑されるが,一人の赤子が小諸藩主牧野遠江守に届けられる.牧野遠江守はその子を股肱の家臣・高倉信右衛門に預けわが子として育てるよう命じる.その子高倉信吾は成人し,父と藩主の許しを得て3年間の武者修行に出る.2_20260302091801
3年後信吾は無事帰参し,藩主の命で水戸の剣客庄司嘉兵衛と立ち会い,三弦の構えという秘剣で勝利した.しかし嘉兵衛に御前試合で敗れた隣家の池辺父子は,これを妬んで高倉家を襲い,高倉信右衛門と妹・芳尾を斬殺する.信吾は二人を追って討ち果たすが,そのまま脱藩して浪人となった.牧野遠江守はこれを憐れみ,新悟を追わないよう家臣に命じる….4_20260302091801
ここまでが映画の前半,数奇な星のもとに生まれた信吾の数奇な半生を描く物語.柴田錬三郎の原作に拠るが,設定はかなり複雑で何もこうでなくってもという気がする.しかしこの映画の魅力は何といっても市川雷蔵.出生直後に実の母を実の父に処刑され,最愛の義妹と養父を突然斬殺されるという運命にもかかわらず,藩主と養父のおかげで爽やかな青年剣士に育った信吾,しかし彼を襲った運命は余りに苛酷なものだった.3_20260302091801
信吾を演じる雷蔵の,爽やかな剣士でありながら寄る辺ない身でもあるそのありようが,印象的であり共感もできる.また,いかに信吾が天下無双の剣士であっても,歴史の大乱の中に飲みこまれざるを得ない映画の終盤も印象的.市川雷蔵という得難い俳優の素晴らしさを,改めて認識する映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2026/02/05

独断的映画感想文:黒の牛

日記:2026年2月某日
映画「黒の牛」を見る.1_20260208211001
2024年.日本,台湾,アメリカ.
監督:蔦哲一朗.出演:リー・カンション(狩猟民の男),ふくよ(牛)(黒い牛),田中泯(禅僧),須森隆文,ケイタケイ.
映画の冒頭は山火事,狩猟民の男は焼け出され丸裸の状態で意識を取り戻す.里に下りるという一族と別れ放浪していた男はその冬,里の外れに住む老女に拾われ里の暮らしのしかたを教わる.春が来て老女の田に無事に水を入れた後,老女は息を引き取った.2_20260208211001
その後男は山野を放浪する中,行倒れた人とそのそばにたたずむ黒い牛を見つける.逃げる牛を力づくで里の家に連れ帰った男,餌を与えて牛小屋に入れるが,翌朝牛は姿を消していた.大声で叫び牛を探し求める男,翌日探しあぐねて家に戻ると,牛は牛舎に戻っていた.
その後立ち寄った禅僧の指導で,牛を使った荒起こしや代掻きを学んだ男は,老女から受け継いだ田を耕し,また牛を連れて里の人の田を耕しに行ったり,禅僧の斡旋で牛を牛飼いに貸して銭を得たりして,生活は落ち着くかと思えた….3_20260208211001
禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した『十牛図』にインスパイアされた映画.主人公の男には台詞はなく,男の自然との付き合いや牛との格闘が映像で描かれる,映像詩と言って良い映画だ.映画は『十牛図』の各図にのっとった形で物語を進めてゆく.
『十牛図』として1.尋牛(じんぎゅう)牛を探す(本当の自分を探し始める),2.見跡(けんせき): 牛の足跡を見つける(教典や師の教えでヒントを得る),3.見牛(けんぎゅう): 牛の姿を見る(真の自己(悟り)の入り口を垣間見る),4.得牛(とくぎゅう): 牛を捕まえる(悟りを体得するが、まだ自分のものになっていない),5.牧牛(ぼくぎゅう): 牛を飼いならす(執着をなくし、修行を続ける),6.騎牛帰家(きぎゅうか): 牛に乗って家へ帰る(悟りを得て心安らかな状態),7.忘牛存人(ぼうぎゅうぞんにん): 牛を忘れる(悟りも手放し、素の自分になる),8.人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう): 人も忘れる(絶対的な無、執着がない状態),9.返本還源(へんぽんげんげん): もとに還る=あるがままの自然な世界,が各章のテーマとして掲示されるが,もとより映画は禅の教えを講じるものではない.映画はあくまでテーマに沿った男と黒牛の物語を語って行く.4_20260208211001
牛はなかなかの働き者で,男も惜しみなく働き牛の世話をする.牛と男の関係は互いに信頼し気を許した者同士のそれに見える.ところがこの関係は突然破綻する.これ以降はネタバレなのだが,翌年の祭りの時期にまた牛飼いに牛を貸し出したところ,ある日牛飼いがやって来て黒牛は死んだと云う.その証拠として牛飼いは牛の鼻輪を男に渡し,わずかの見舞金を払って去って行った.男はその後一人で暮らし死ぬ.映画は人間のいなくなった集落と,牛の群れがさ迷う海岸の情景をえがいて終って行く.6_20260208211001
いろいろなことを考えさせる映画であった.現世的にはこれで一安心と思える,暮らしが軌道に乗った時は「悟りを得て心安らかな状態」ではあるが,まだこの後にその状態自体を手放し,あるがままの自然な世界に戻る過程があるのだ.映画はそのあるがままな世界にはもう人間は不在であると言っているようでもある.
主演のリー・カンションと黒牛=ふくよの演技が素晴らしい.黒白の画面(最後の滅びの場面ではカラー・70ミリ)は墨絵の様で,訴える力に満ちている.台詞はほとんどない映画だが,自然音を含めた録音の効果も圧倒的.冒頭とエンドロールを彩る坂本龍一の音楽も素晴らしい.時のたつのを忘れてこの映画に見入った.5_20260208211001
監督の蔦哲一朗は,生まれ故郷の徳島県三好市池田町に関わる作品を撮り続ける.祖父は池田高校野球部監督・蔦文也.ところで映画に出てくるのは十牛図のうち第九図までの様だが,実はエンドロールの最後に10.入鄽垂手(にってんすいしゅ): 町に現れ手を垂れる=慈悲の心で人々を救済する,が登場する.そのコメント(この映画としてのコメント)がまた傑作.
★★★★(★5個が満点).
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2026/02/01

独断的映画感想文:アイミタガイ

日記:2026年2月某日
映画「アイミタガイ」を見る.
2024年.日本.監督:草野翔吾.1_20260202170601
出演 :黒木華(秋村梓),中村蒼(小山澄人),藤間爽子(郷田叶海),安藤玉恵(稲垣範子),近藤華(中学生の梓),白鳥玉季(中学生の叶海),吉岡睦雄(車屋典明),松本利夫EXILE(羽星勝),升毅(福永),西田尚美(郷田朋子),田口トモロヲ(郷田優作),風吹ジュン(綾子),草笛光子(小倉こみち).2_20260202170601
腕利きのウェディングプランナー梓は9才の時両親が離婚,母のもとで育ったが母も数年前に亡くなった.親友叶海はプロカメラマン,その叶海が出張先の海外で事故に遭い命を落とす.梓はその死が受け入れられず,付き合っている澄人のことなどを以前通りに叶海のトーク画面に送り続ける.3_20260202170601
叶海の両親:優作と朋子は,叶海が生前とある児童養護施設と交流していたことを知る.また朋子は叶海の遺品である携帯に送られてくるメッセージに気付いていた.梓の叔母・範子がホームヘルパーに通っている女性・こみちは93歳,梓が顧客の金婚式のイベントに出演する,高齢でピアノが弾ける女性を探していると知った範子は,梓にこみちを紹介する.こみちに会った梓は,昔叶海と共にこみちのピアノを聞いた記憶を思い出した….5_20260202170601
叶海の死をめぐる喪失と再生の物語を,彼女と関わりのあった人々の意外な結びつきを通じて,群像劇風に描いてゆく映画.
主人公の梓は両親の離婚とその後の転居でいじめの対象となったところを,叶海に救われ無二の親友となった.今は澄人と付き合っているが,両親の記憶から結婚にいま一歩踏み出せないでいる.その気持ちを綿々と叶海の携帯宛に日々綴っていくのだが,映画の終盤そのメッセージに一斉に「既読」が付き,「行っちゃえ!」と返信が帰るシーンはなかなか感銘的だ.4_20260202170601
疎遠になりかけていた叶海の両親が,児童養護施設での叶海の足跡をたどることで,再び手を取り合って生きていく展開も素敵.そのシーンの西田尚美と田口トモロヲの演技も感銘的で素晴らしかった.俳優では黒木華の魅力がやはり圧倒的だ.
名古屋から桑名,四日市,津に至る映画の舞台の風景も印象的で,冒頭のシーンで桑名駅付近の二つの路線の合流点を走って行く近鉄線の列車の俯瞰がなかなか良い.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点).
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