« 2026年7月 | トップページ

2026年9月に作成された記事

2026/09/06

独断的映画感想文:遠い山なみの光

日記:2026年9月某日
映画「遠い山なみの光」を見る.1_20260913211001
2025年.日本・イギリス・ポーランド.
監督・脚本:石川慶.原作・エグゼクティブプロデューサー:カズオ・イシグロ.
出演:広瀬すず(悦子),二階堂ふみ(佐知子),吉田羊(悦子(1980年代)),カミラ・アイコ(ニキ),松下洸平(二郎),三浦友和(緒方).5_20260913210901
映画の冒頭は悦子の夢,夜の河川敷の茂みを疾走する女性,暗い川面を何かが流れてゆく.1980年代の英国,ロンドン郊外の一軒家に一人住む悦子のもとに,久しぶりにライターとして働いている娘のニキが帰ってくる.悦子は英国人の夫(シェリンガム氏)に先立たれ,また前夫との子・恵子は最近この家に帰ってきた直後に自殺した.景子とシェリンガム氏の仲も景子とニキの仲も良いものではなかった様だ.ニキの求めに応じ,悦子は1950年代の長崎の思い出を語り始める.3_20260913210901
悦子は南方から復員した二郎と公団住宅で暮らしていた.景子を身ごもっていた.近くのバラックに住む佐知子と万里子という母子と知り合いになる.万里子は被爆児らしい.佐知子は米国人と付き合っていて,近く米国に移住する予定だと云う.佐知子と付き合い,万里子に対する被ばく差別や万里子の失踪に巻き込まれながら,一方で,夫の父でかって軍国教育の中心にいた元校長の緒方の逗留にも対応しながら暮らす,悦子の思い出が語られる….2_20260913210901
違和感の多い映画である.その違和感は悦子の語る1950年代の長崎の,復興に向かいながら原爆という大きな悲劇の後遺症による不安や怖れにも,恵子を失った1980年代の悦子の不安や怖れにも起因するのだろう.悦子の物語にも詳細な記述もあれば欠落した部分もある.悦子のかっての上司でもある緒方の前で,被爆児童を救えなかったことに涙する悦子.しかし悦子の教員時代の暮らしは描かれないままだ.二郎との公団住宅での暮らしは詳細に描かれる.しかしその二郎といつ何故別れ,シェリンガム氏と英国に移住したのかは判らないままだ.4_20260913210901
終盤に至って映画は思いがけぬ展開を見せ,悦子と佐知子,万里子と景子の関係が明らかになってゆく.その内容にも驚かされるが,ニキとの会話によって悦子の何かが解放されたのだろうか.大きな悲劇とそこに巻き込まれた人間の心理をめぐる,きわめて印象的な映画.
★★★★(★5個が満点).

| コメント (0)

2026/09/04

独断的映画感想文:木挽町のあだ討ち

日記:2026年9月某日
映画「木挽町のあだ討ち」を見る.1_20260911115201
2026年.監督・脚本:源孝志.原作:永井紗耶子.出演:柄本佑(加瀬総一郎),渡辺謙(篠田金治),長尾謙杜(伊納菊之助),北村一輝(作兵衛),瀬戸康史(一八),滝藤賢一(相良与三郎),山口馬木也(伊納清左衛門),愛希れいか(お三津),イモトアヤコ(お与根),野村周平(遠山安房守),高橋和也(芳澤ほたる),正名僕蔵(久蔵),石橋蓮司(滝川主馬),沢口靖子(伊納たえ).4_20260911115101
ベストセラーの小説を原作とする映画だが,小説とは若干設定が違い,また歌舞伎で上演された舞台とも違う独自の物語.
1810年1月の晦日,木挽町森田座で仮名手本忠臣蔵の上演が終了した直後,森田座隣の空き地で仇討ちがあった.劇場から出てきた数百の観客の前で,遠山藩士・伊納菊之助が父の仇・作兵衛を打ち取り首級を上げたのだ.菊之助は首を番所に届け出,仇討ち成就を認められると故郷に帰って行った.5_20260911115101
1年半ほどして加瀬総一郎という浪人が森田座を訪れる.加瀬は菊之助の許嫁の兄であると云い,菊之助の仇討ちの状況を根掘り葉掘り尋ねまわるのであった.当時菊之助に協力した座付き作者の篠田金治(実は菊之助の母のもと婚約者),木戸芸者の一八,座付き殺陣指導者の相良与三郎,衣装係の芳澤ほたる,小道具担当の久蔵らが,菊之助が森田座に転げ込んで以来本懐を遂げるまでの暮らしを,こもごも語るが….2_20260911115101
加瀬は遠山藩士だった時,菊之助の父・伊納清左衛門の部下だった.清左衛門・作兵衛と加瀬の関わった,菊之助の知らないお家の大事があり,加瀬はそのつながりで作兵衛の所持していた,あるものを探しに来たのだ.一方,菊之助は加瀬の知らない事情で森田座の一同と作兵衛に対処していた.両者の抱えた秘密が明らかになる時,物語は大団円を迎える….3_20260911115101
この物語がそもそも面白いのだが,演じる俳優たちが腕利きぞろいで素敵.渡辺謙,滝藤賢一,山口馬木也,沢口靖子らがさすがの出来だ.菊之助の長尾謙杜が,美しく健気な少年を演じて素晴らしかった.色彩的にも,森田座から出てくる色とりどりの傘の俯瞰,雪上で赤い振袖を脱ぎ捨て白装束の菊之助が現れるシーン,夏の竹林で加瀬と相良が対峙するシーン等,映画ならではの美しさが印象的だった.森田座の楽屋風景も歌舞伎ファンには面白く,見て損のない映画.
★★★★(★5個が満点).

| コメント (0)

2026/09/02

独断的映画感想文:かなさんどー

日記:2026年9月某日
映画「かなさんどー」を見る.1_20260905220301
2024年,日本.監督・脚本:照屋年之.
出演:松田るか(赤嶺美花),堀内敬子(赤嶺町子),浅野忠信(赤嶺悟).
映画の冒頭,紅い口紅を塗って盛装し施設の赤嶺悟を訪れる若い女.認知症の悟を連れて出かけ,公園でブランコに乗って見せ,海岸でデートし,工場で重機に乗って結婚の記念写真を撮る.2_20260905220301
赤嶺美花は母町子が病死した時に,いくたびもかけた電話に出ず飲んだくれていた父が許せず,島を出て7年間東京で暮らしていた.父が認知症で余命も短いと連絡を受け,しぶしぶ帰郷し家に戻る.父は施設で暮らしていたが,美花の顔を見て「町子…」と呟いた.美花は父を許す気にはなかなかなれなかったが,父を今でも慕う以前の従業員たちや,実家にあった母の日記を読み,仲睦まじかった父と母の在りし日を思い出す….3_20260905220301
ガレッジセールのゴリとしても活躍するこの監督のヒューマンドラマ.登場人物は美花と両親の他は旧従業員たちだけ,いかにも狭いフィールドで変化していく美花の心情を描いていて,尺も86分と短く,寓話的映画と言って良いかもしれない.物語の中心は町子と美花の親子である.悟の飲んだくれ生活にもかかわらず,真知子が如何に悟を愛したか,そのために毎朝悟のために化粧しきちんとした服で装う.自分の持病もありながら,体をいとわず悟のために料理し,世話をし,尽くさずにはいられない.4_20260905220301
一方美花は父を非難しつつ,父に甘い母にも批判の矢を向けるが,父が母と結婚するためにどれだけ奔走したかを母に聞き,二人の愛も理解するようになるのだが….冒頭のシーンが何だったのかは,ここから明らかになる.5_20260905220301
松田るかと堀内敬子の演技が素晴らしく,柔らかく愛情に満ちた町子と,感情豊かで気っぷのいい美花の親子関係が印象に残った.この映画はこの俳優二人を見る映画だ.それ以外のことにはあまり説明はなされず,突っ込みたいところも幾つもあるが,全体としては好印象の映画.
★★★☆(★5個が満点)

| コメント (0)

« 2026年7月 | トップページ