2023/09/22

独断的映画感想文:やがて海へと届く

日記:2023年9月某日
映画「やがて海へと届く」を見る.1_20230925153901
2022年.監督・脚本:中川龍太郎.
出演:岸井ゆきの(湖谷真奈),浜辺美波(卯木すみれ),杉野遥亮(遠野敦),中崎敏(国木田聡一),鶴田真由(卯木志都香),中嶋朋子(伊藤祥栄),新谷ゆづみ(伊藤羽純),光石研(楢原文徳).2_20230925153901
真奈とすみれは大学時代からの親友,すみれが母親と折り合いが悪くなった時期,1年以上真奈の部屋に同居したこともある.すみれが同級生の遠野君と同棲した後も交流は続いていた.
ある日すみれはひとり旅行に出たまま行方不明になってしまう.それから5年,真奈はまだすみれの不在を受けとめられない.遠野君が転居をするのですみれの荷物を処分すると言って来る.遠野君は結婚するらしい.遠野君もすみれの母親も,すみれを亡くなったものとして思い定めようとしていることが,真奈には耐えられない.職場の上司・楢原さんが急死したことをきっかけに,真奈はすみれの辿った後を訪ねてみようと旅に出る….6_20230925153901
彩瀬まるの同名小説を原作とした喪失と再生の物語.当初は真奈の視点から描かれる映画,真奈は人当たりがよく積極的なすみれにあこがれの感情を持つ.4_20230925153901
一方ある時点から映画にはすみれの視線も加わってくる.すみれはすみれで真奈の芯の強さを評価していた.それぞれを演じる岸井ゆきのと浜辺美波の演技が秀逸,終盤の二人が見つめ合う長回しのシーンが印象的だ.エピローグの真奈の独白は,岸井ゆきののアドリブだということも知り,岸井ゆきのの力量には改めて感心.3_20230925153901
映画の冒頭と終盤に挿入されるアニメーションも題名に相応しく暗示的だ.パステル調の色彩に溢れたカメラが美しく,音楽も素晴らしい.見て損はなし.★★★★☆(★5個が満点).5_20230925153901
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2023/09/07

独断的映画感想文:福田村事件

日記:2023年9月某日
アップリンク吉祥寺で映画「福田村事件」を見る.0_20230911172901
2023年.監督:森達也.
出演:井浦新(澤田智一),田中麗奈(澤田静子),永山瑛太(沼部新助),東出昌大(田中倉蔵),コムアイ(島村咲江),木竜麻生(恩田楓),松浦祐也(井草茂次),向里祐香(井草マス),杉田雷麟(藤岡敬一),カトウシンスケ(平澤計七),ピエール瀧(砂田伸次朗),水道橋博士(長谷川秀吉),豊原功補(田向龍一),柄本明(井草貞次).5_20230911172901
1923年,朝鮮での教職勤務に挫折した澤田智一は妻静子とともに故郷福田村に帰ってくる.同級生だった田向は開明派の村長に,一方長谷川は彼と真っ向から対立する在郷軍人会会長になっていた.親方・沼部に率いられた讃岐の薬売りの行商団15人は,関東地方を巡回していた.
9月1日関東大震災が起こると,「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との流言飛語が飛び交い,福田村でも在郷軍人会を中心に自警団が組織される.折しも震災のため足止めを食っていた沼部たちは,利根川を渡ろうと福田村の渡しにやってくるが,そこで大事件が発生する….3_20230911172901
9月6日に起こった福田村事件の全貌を描く映画.この事件で行商団のうち幼児や妊婦を含む9人が,100人以上の村人により殺された.映画の冒頭は,シベリア出兵で戦死した夫の遺骨を持ち帰る島村咲江のシーン.駅頭に村長,在郷軍人会長らが迎える.この後,映画は福田村の人々の生活,人間関係,讃岐の行商団の薬売りのあり様を丁寧に描いていく.4_20230911172901
行商団は被差別部落の人々だ.薬を売る相手も貧しい人々,効く訳はないと自嘲しながら癩病に病んだ人々の集落も訪れ薬を売る.また事件の起こる度に,内務省の指示で「いずれは社会主義者か鮮人か、はたまた不逞の輩の仕業か」と書き添え世論を煽り続ける新聞社で,真の情報を書こうと奮闘する記者の活動も描かれる.事件の背景の日本社会の状況が浮かび上がってくる構成だ.1_20230911172901
それにしても事件直前まで,そんな愚かなことが起こりうるのだろうかとしか思えなかった惨事が,思いがけないきっかけから暴走した人々によって引き起こされる.それは現在の日本でSNS上で連日繰り広げられている攻撃と何ら変わることはない.映画は映像・音楽も素晴らしく,俳優陣も好演.特に在郷軍人会長を演じた水道橋博士が熱演.
★★★★(★5個が満点).
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2023/08/19

独断的映画感想文:FLEE フリー

日記:2023年8月某日
映画「FLEE フリー」を見る.Flee1
2021年.監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン,アニメーション監督:ケネス・ラデケア,脚本:ヨナス・ポヘール・ラスムセン,アミン・ナワビ.
コペンハーゲンに住むアミンは、友人である映画監督ヨナスに自分の過去を語り始める.1984年,社会主義政権下のアフガニスタン・カブール.両親と二人の姉,兄と暮らしていたアミンだが,幼い頃からゲイであることは自覚していた.
1989年のソ連軍撤退後ムジャヒディーンが主導権を握ると,国内は内乱状態になる.父親は逮捕され行方不明に,一家は身の危険を感じ唯一旅券を発行していたソ連に逃亡する.スウェーデンで働いていた長兄がモスクワでの生活を手配してくれたが,身分証なしでモスクワには長くいられない.長兄の工面した金でまず姉2人がスウェーデンへの密航をしたが,同行の三分の一が死亡するという惨事に巻き込まれる.Flee5
その後残った家族も脱出するが,バルト海をボートで漂流した挙句大型客船に通報され,エストニアに連行され半年間収容所暮らしをしたのち,モスクワに送還される.その後アミンは長兄の配慮でより安全な密輸業者に託され,デンマークへ脱出したが….Flee3
数奇な運命をたどった青年アミンの物語をアニメで描いたドキュメント.アミンは現在はアメリカにいてプリンストン大学の研究生となり,恋人のキャスパーと同居しようかという状況だが,家族を含めた自身の経歴をひた隠しにしていたので,それを親友ヨナスに打ち明けたインタビューというのが,この映画である.Flee2
アミンがモスクワでどう暮らしていたのかや,どうやってアメリカにわたって学問を身につけたのかは,映画では触れられていないので不明.しかし映画の描くアフガニスタンからの逃避行の凄惨さに,とにかく圧倒される.アミンの長兄は,家長としての責任感から家族の脱出費用を工面し続けるが,その負担は如何ばかりだったろう.その長兄が,アミンがゲイであることを了解してくれたシーンは,まことに印象的.Flee4
アミンもそれに応え,何とか学問で身を立てたいと願い,それが恋人との軋轢になるのも深く考えさせられる.存命の関係者が多数いることもあってドキュメントアニメという形式をとった本作だが,考えさせられることの多い内容だった.
★★★☆(★5個が満点).
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2023/08/12

独断的映画感想文:ゴヤの名画と優しい泥棒

日記:2023年8月某日
映画「ゴヤの名画と優しい泥棒」を見る.1_20230813163001
2020年.監督:ロジャー・ミッシェル.
出演:ジム・ブロードベント(ケンプトン・バントン),ヘレン・ミレン(ドロシー・バントン),フィオン・ホワイトヘッド(ジャッキー・バントン),アンナ・マックスウェル・マーティン(ミセス・ゴウリング),マシュー・グード(ジェレミー・ハチンソン)),ジャック・バンデイラ(ケニー・バントン),シャーロット・スペンサー(パメラ).2_20230813163001
1961年,ニューカッスル.ケンプトンは正義感の強い皮肉屋の老人.BBCの視聴に有料の許可証が必要な事態に怒り,BBCのみが見えないよう改造したテレビを盾に支払いを拒否するが,13日間の収監という憂き目にあう.
ケンプトンはかって娘マリアンヌを交通事故で亡くし,その悲しみを題材に幾つも戯曲を書き,あちこちに売り込んでいる.タクシーの運転手をしていたが,困窮者のタクシー料金を勝手に免除したことがばれ,クビになる.家計は妻ドロシーが家政婦をして支えている.ドロシーは常識人,ケンプトンの行動にはついて行けず,長男のケニーが人妻のパメラと同棲しているのも気に入らない.3_20230813163001
おりしもイギリス政府はゴヤの肖像画「ウェリントン公爵」を落札し,ナショナル・ギャラリーで公開した.14万ポンドという落札額に,その金があれば多くの人がBBCを無料で見れる,と憤慨するケンプトン.ある晩,「ウェリントン公爵」は盗まれた.警察は専門集団の犯行と色めき立つ.ケンプトンはその絵を次男ジャッキーの手を借りて,自室の洋箪笥の裏に隠す.
ケンプトンはこの絵を返す代わりにBBCの料金を無料にせよと当局に手紙を出すが,なかなか信用されない.一方,ケンプトンの部屋でケニーとセックス中のパメラが「ウェリントン公爵」を発見,ケンプトンを脅してくる.進退窮まったケンプトンはナショナルギャラリーに絵を返しに行き,その場で逮捕された….5_20230813163001
事実に基づく物語.前半のケンプトンの悪戦苦闘も興味深いが,後半の裁判劇(弁護士役のマシュー・グードが素敵!)のイギリスらしいユーモアも面白い.何よりドロシーとケンプトンの夫婦愛が(あいだに大げんかは数知れないが)感銘的.ジム・ブロードベントとヘレン・ミレンがさすがに見ごたえあり.4_20230813163001
裁判の結果は思いもよらないもので,これが事実に基づく物語なのだから,イギリスは日本とだいぶ違ったお国柄だ.更に最後の最後で明かされるどんでん返しにもびっくり.見て損はなし.邦題は丁寧な題名だが,原題は“The Duke”.「ウェリントン公爵」のことだろう.
★★★★(★5個が満点).
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2023/08/02

独断的映画感想文:アデル、ブルーは熱い色

日記:2023年8月某日
映画「アデル、ブルーは熱い色」を見る.1_20230805173801
2013年.監督:アブデラティフ・ケシシュ.
出演:アデル・エグザルコプロス(アデル),レア・セドゥ(エマ),サリム・ケシュシュ(サミール),モナ・ヴァルラヴェン(リーズ),ジェレミー・ラウールト(トマ),アルマ・ホドロフスキー(ベアトリス),バンジャマン・シクスー(アントワーヌ).3_20230805173801
アデルは文学を学ぶ教員志望の高校2年生.仲間に乗せられるまま上級生のトマと付き合うが,なんとなく違和感があって別れることにする.街で見かけた青く髪を染めた女性と,級友ヴァレンティンに連れていかれたゲイバーで会ったアデル.その女性エマは美術学校の4年生,アデルはエマと付き合い始め彼女に夢中になった….5_20230805173901
アデルとエマの恋愛物語.二人がレズビアンということ以外は,きわめてオーソドックスな恋愛ドラマで,主演2人の好演もあって誠に見応えあり.2_20230805173801
アデルは男の子ともエマとも寝るし,ゲイバーに行き酒を飲み,街頭デモにも参加するが,フランスの女の子としてはごく普通の子らしい.子どもが好きで教員を目指し実習にも励むごく堅実な女性だ.一方エマは画家として一本立ちを目指し,周囲は芸術家が取り巻く.エマと同棲したアデルがホームパーティーのため献身的に働くシーンは,エマとアデルの立場の違いを示唆しているようだ.4_20230805173801
食欲も性欲も旺盛な健康的なアデルだが,エマの反応にすぐ涙ぐんでしまう一面もある.それを演じるアデル・エグザルコプロスが愛らしい.一方,抜けるような笑顔と沈鬱な虚無感を併せ持ち,透明な美貌が印象的なエマ,演じるレア・セドゥが何とも魅力的だ.二人の魅力を丁寧に拾っていくカメラも素敵.
3時間の長編だが,最後まで間断することろなく楽しめた.邦題には若干違和感あり.原題は「アデルの人生」.
★★★★(★5個が満点).
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2023/07/17

独断的映画感想文:峠 最後のサムライ

日記:2023年7月某日
映画「峠 最後のサムライ」を見る.1_20230722221501
2020年.監督・脚本:小泉堯史.
出演:役所広司(河井継之助),松たか子(おすが),田中泯(河井代右衛門),香川京子(お貞),佐々木蔵之介(小山良運),坂東龍汰(小山正太郎),永山絢斗(松蔵),芳根京子(むつ),榎木孝明(川島億次郎),渡辺大(花輪求馬),矢島健一(松平定敬),山本學(老人),井川比佐志(月泉和尚),東出昌大(徳川慶喜),吉岡秀隆(岩村精一郎),仲代達矢(牧野忠恭(雪堂)).3_20230722221401
司馬遼太郎の原作から,河合継之助の戊辰戦争直前から亡くなるまでの激動を脚本化した.河合は薩長の倒幕方針を暴挙と批判,長岡藩の武装中立と東西両軍の調停という立場を掲げることで戦争を防ぐと主張する.藩境に迫った官軍に対し河合はこの趣旨の嘆願書を提出して交渉を試みるが,官軍は単なる時間稼ぎとみなし,嘆願書の受け取りを拒否,戦端は開かれた.2_20230722221401
官軍の大軍に対し長岡藩兵は千人に満たず,数日を待たず官軍の信濃川渡河作戦により長岡城は落城する….
原作を読んだ時から河合のこの方策には強い違和感があった.英邁な家老である河合が,一方で領民を深く思いやりつつ武士の一分を重視して,結果的には長岡城下を焦土とする戦乱を巻き起こし長岡藩も領民の暮らしも壊滅させる.この厳然たる事実を見て,河合を「最後のサムライ」などと持ち上げる考えには,全く共感できない.映画では,この疑問を河合に幼少時から親しんだ料理屋の娘・むつに発言させている.4_20230722221401
それにもかかわらず,映画としては本作品はしっかりとした時代劇として見ごたえ充分,特に役所広司の圧倒的な存在感と,充実した共演陣の好演が素晴らしい.映画の主旨には違和感ありながら,映画の出来には満足という複雑な感想となりました.
★★★☆(★5個が満点).5_20230722221401
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2023/07/13

独断的映画感想文:土を喰らう十二ヵ月

日記:2023年7月某日
映画「土を喰らう十二ヵ月」を見る.1_20230713114501
2022年.監督:中江裕司.
出演:沢田研二(ツトム),松たか子(真知子),西田尚美(美香),尾美としのり(隆),瀧川鯉八(写真屋),檀ふみ(文子),火野正平(大工),奈良岡朋子(チエ).2_20230713114501
映画の冒頭,軽快なジャズとともに飛ばしてゆく車,車は雪国に入りとある民家に到着,下りた真知子は民家に上がってツトムのもてなしを受ける.小説家のツトムは信州の山あいの村に住み暮らす.13年前に妻を亡くしたが,まだそのお骨は墓に収めていない.少年時代に寺の小僧だった時習い覚えた精進料理を,地元の食材で作って食べるのが楽しみ.編集者の真知子は年の離れた恋人で食いしん坊,ツトムの作った料理を食べるのが大好きだ.5_20230713114501
近くに住む亡妻の母チエさんとの交流,チエさんは味噌づくりの名手で,ツトムはもっぱらチエさんにもらう味噌を常食としている.近所の大工とも食のつながりで懇意である.チエが亡くなって,息子・隆の連れ合い・美香は葬儀をツトムに丸投げしてくる.筋違いとは思いながら,ツトムはチエの葬儀を自宅で行い,通夜の振舞を真知子の助けを借りてすべて準備することになった….4_20230713114501
ツトムの暮らしを,二十四節気に従い描いていく映画.ゆっくりしたテンポでツトムや周辺のひとたちの暮らしを描く.その映像や周囲の自然が美しく心がのどかになる.ツトムを演じる沢田研二のおだやかな演技もナレーションの声も,映画によく合って魅力的だ.これが遺作となった奈良岡朋子が美しい.俳優たちには生活感があまりないから,映画としては寓話的な感じはあるが,土井善晴先生監修のお料理はすべてリアルに美味しそう.楽しい映画だった.3_20230713114501
★★★☆(★5個が満点).
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2023/07/04

独断的映画感想文:ミナリ

日記:2023年7月某日
映画「ミナリ」を見る.
2020年.監督:リー・アイザック・チョン.1_20230705184401
出演:スティーヴン・ユァン(ジェイコブ),ハン・イェリ(モニカ),ユン・ヨジョン(スンジャ),ウィル・パットン(ポール),スコット・ヘイズ(ビリー),アラン・キム(デビッド),ノエル・ケイト・チョー(アン).7_20230705184401
1980年代,韓国系移民のジェイコブは妻モニカ,娘のアン,心臓に病気のある息子デビッドとともに,アーカンソーの農園に引っ越してくる.ジェイコブは妻とともにヒヨコの雌雄鑑別師として働きながら,農場主を夢見て農園の開墾にいそしむ.ジェイコブの夢は韓国野菜を栽培し,韓国人ネットワークに安定的に販売することだった.井戸を自力で掘り,地元民ポールを雇って野菜成育に心血を注ぐ.4_20230705184401
子どもたちの世話のために韓国からモニカの母・スンジャもやってくる.彼女は料理も作れずクッキーも焼かないうえ,悪態をつきながら花札をするのが大好きだが,子どもたちとは奇妙な友情を育んでいく.しかしやがて井戸が枯れ,水道の水を使うため経費がかさみ,販売を引き受けた韓国人業者に裏切られるなど災厄が重なり,ジェイコブとモニカは疲弊し関係も険悪になってゆく.更にスンジャが脳溢血の発作を起こし….3_20230705184401
現代の移民の悪戦苦闘を描く,アメリカ映画.ブラッド・ピットが製作総指揮を執るが,スタッフ・俳優の多くは韓国系のひとたち.
移民がゼロから暮らしを作っていく苦労は,アメリカ人なら共感できるだろう.映画は家族の中での不和や葛藤,次々に降りかかる災難を描く一方,それを乗り越え或いは災難にかえって助けられて進んでゆく家族の結びつきを示してゆく.まことに禍福は糾える縄の如し,思いがけないデビッドの病気の改善の一方破綻する夫婦の関係,壊滅的な災厄の後結びつきを取り戻し再出発していく家族の姿が,深い感動を呼ぶ.5_20230705184401
俳優は何と言ってもユン・ヨジョンが素晴らしい.この難しい役をスンジャその人として演じた力に拍手を送りたい.デビッド役のアラン・キムも素敵.見応え十分な映画らしい映画.なお,「ミナリ」とは韓国料理によく使われるセリの一種.1シーズン目は枯れるが2シーズン目に再生したものが美味しいと云う.

6_20230705184401

★★★★☆(★5個が満点).
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2023/07/03

独断的映画感想文:ドリームプラン

日記:2023年7月某日
映画「ドリームプラン」を見る.
2022年.監督:レイナルド・マーカス・グリーン.1_20230704144301
出演:ウィル・スミス(リチャード・ウィリアムズ),アーンジャニュー・エリス(オラシーン・ウィリアムズ),サナイヤ・シドニー(ビーナス・ウィリアムズ),デミ・シングルトン(セリーナ・ウィリアムズ),トニー・ゴールドウィン(ポール・コーエン),ジョン・バーンサル(リック・メイシー).
テニス界を席巻したビーナス,セリーヌのウィリアムズ姉妹を育てた父:リチャードを描く映画.リチャードは2度目の妻オラシーンとの間の子をプロテニスプレイヤーに育てようと,プランを練り独学でテニスを学ぶ.リチャードのコーチのもと公共施設で練習する日々,しかしその指導も限界に来る.2_20230704144301
様々なコーチのもとに売り込みを図るリチャード,あるチャンスに直接見て貰えた有名コーチ:ポール・コーエンは,姉妹の実力を認め無料での指導を了承,しかし指導は一人だけということになる.リチャードはビーナスの受ける指導をビデオ撮りし,セリーヌもそれを見て猛練習,二人はジュニア大会に出場して驚異的な成績を収める.これを見て彼女たちを丸抱えで面倒見ようというエージェントが訪問してくるが,リチャードは断り,彼らを紹介したポール・コーエンとも縁を切る….3_20230704144301
リチャードは新たにリック・メイシーと契約を交わし,無料でコーチする代わりに将来の稼ぎの15%を提供するという条件で,家族全体をフロリダのメイシーのアカデミーで面倒を見ることとした.姉妹は指導を受け力をつける.リックはジュニア大会への出場を勧めるが,リチャードは教育を優先しそれに応じない.4_20230704144301
3年間待ってビーナス自身が試合を渇望するようになり,ついにビーナスは14歳でプロデビューを果たす.ビーナスは2戦目で世界王者アランチャ・サンチェス・ビカリオに敗れ失意に沈むが,コートの外には彼女を支持する多くの若者が待っていた….5_20230704144301
リチャードの強烈な個性は圧倒的だが,同時に姉妹をはじめ家族への愛情あふれる心情が描かれ感銘的である.特にウィル・スミス,サナイヤ・シドニーの演技を始めリチャード一家を演じる俳優たちが素晴らしい.リチャードとビーナス,リチャードとセリーナがそれぞれ心を通わす会話シーンには涙を禁じ得なかった.見て損はなし.なお,原題は「King Richard」,洒落が効いている.
★★★★(★5個が満点).
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2023/05/20

独断的映画感想文:それでも私は生きていく

日記:2023年5月某日
新宿武蔵野館で映画「それでも私は生きていく」を見る.1_20230521094301
2022年.監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ.
出演:レア・セドゥ(Sandra Kienzler),パスカル・グレゴリー(Georg Kienzler),メルヴィル・プポー(Clement),ニコール・ガルシア(Francoise),カミーユ・ルバン・マルタン(Linn).3_20230521094301
サンドラは夫を亡くし通訳と翻訳を職業とするシングルマザー.8歳のリンを学校に送り,父ゲオルグの介護に通う.父は哲学の教師だったが,数年前から神経系の難病のため視力を失い,知力も記憶も失われつつある.すでに一人住まいは無理となった父を,元妻,現パートナー,娘たちが療養施設に入れようと奮闘するが,受け入れ先がなかなか見つからない.5_20230521094301
そんな日々,かっての友人だったクレマンと出会い,二人の間に恋が芽生える.リンはクレマンを母の恋人として素直に受け入れるが,クレマンは妻と息子との家庭を捨てることに大きな葛藤があった.父は仮の受け入れ先の病院,民間療養施設をたらいまわしになるうちに目に見えて衰えていく….4_20230521094301
ぎりぎりの生活を送っているサンドラの恋は,身も心もぶつける激しいものとならざるを得ない.クレマンは妻との板挟みになっていったんサンドラのもとを離れていく.何故クレマンは来ないのかと問うリン,その間にも父の認知は衰え娘のサンドラさえも認識できなくなる.その間の事情を映画は丁寧に淡々と描いていく.
家じゅうを埋め尽くした書籍を読めなくなった父,あれほど好きだったシューベルトのピアノ曲さえ重すぎると言って聞こうとしない父.その父と向き合う悲哀の一方,愛人としての恋に没入せざるを得ないサンドラ.ダニエル・クレイグの007シリーズ最後の2作品でボンドの恋人を演じた,レア・セドゥの演技力に感服する.2_20230521094301
映画の終盤,母とその現パートナー,妹夫妻とリンの従兄妹たちとのクリスマスの夜のハッピーなシーンが印象的.映画は明瞭なハッピーエンドにはならない.しかし人生は捨てたもんではないというエンドにはなっている.そこに至るまで幾度も泣かされた.映像も素晴らしい.ピアノを中心とした音楽も素敵.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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