2021/07/21

独断的映画感想文:ノマドランド

日記:2021年7月21日
映画「ノマドランド」を見る.1_20210722230101 2020年.監督・脚本:クロエ・ジャオ(制作も).
出演:フランシス・マクドーマンド(制作も)(ファーン),デヴィッド・ストラザーン(デイブ),リンダ・メイ(リンダ),シャーリーン・スワンキー(スワンキー).2_20210722230101 ネヴァダ州のエンパイアという企業城下町に住むファーン,夫の死後もその街に住み続けたが,企業は倒産し街そのものがなくなってしまう.ファーンはヴァンに思い出の品を積み込んで家を出る.
まずはアマゾンの臨時労働者となり,アマゾンの駐車料でヴァンでの車上生活をする.仲良くなった同僚のリンダ・メイの紹介で,ボブが主催するノマド(遊牧民)生活をする人々の集会「砂漠の集い」に誘われ,ここで多くの仲間を得る.特にパンクのピンチを救ってくれた末期癌患者のスワンキーとは,深い友情で繋がれる.4_20210722230101
ファーンはサウスダコタ州バッドランズ国立公園のキャンプ場で職を得るが,そこにはリンダ・メイ,「砂漠の集い」で知り合ったデヴィッドもいて友情を深め合う.デヴィッドのもとには息子が訪れ,孫も生まれるので実家に帰って欲しいと告げる.デヴィッドはファーンに一緒に来てくれないかと誘うが,ファーンはいずれ行くからと答える.一方ファーンのヴァンが故障し,その修理代を借りるためファーンは実家に住む姉を訪ねることにする….
5_20210722230101 過酷な季節労働に従事しつつも,定住を嫌い車上生活を続ける高齢労働者たちの軌跡を描く映画.ファーンはどうしてノマド暮らしをするのだろうか.

6_20210722230101 一つの答えは,それが自分の性に合っているからか.姉の家に滞在中も,自室のベッドに馴染めずヴァンのベッドで寝るファーン.デヴィッドに告白された時,彼の家族からも好意的に迎えられたのに,やはり出ていったファーン.彼女は大自然の中を放浪することが好きなのだ.
もう一つの答えは,ファーンが死別した夫ボーを心から愛していたからだ.そのことを話す,終盤のボブとの会話のシーンは,感銘的だ.3_20210722230101

アメリカの圧倒的な風景の中,旅するファーンを追う映像が,誠に美しい.バックに流れるピアノを中心とする音楽も素敵だ.そこにふと挿しはさまれるユーモアも,得難い味がある.美しいロードムービーだが,基底にあるノマドの,連帯を求めて孤立を恐れない覚悟が印象的な映画.見て損は無し.
★★★★☆(★5個が満点)
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2021/07/18

独断的映画感想文:パブリック 図書館の奇跡

日記:2021年7月某日
映画「パブリック 図書館の奇跡」を見る.1_20210720095601 2018年.監督・脚本・製作:エミリオ・エステヴェス.
出演:エミリオ・エステヴェス(スチュアート・グッドソン),アレック・ボールドウィン(ビル・ラムステッド),ジェナ・マローン(マイラ),テイラー・シリング(アンジェラ),クリスチャン・スレイター(ジョシュ・デイヴィス),ジェフリー・ライト(アンダーソン),マイケル・K・ウィリアムズ(ジャクソン),ガブリエル・ユニオン(レベッカ・パークス),ジェイコブ・バルガス(エルネスト・ラミレス),チェ・“ライムフェスト”・スミス(ビッグ・ジョージ).
グッドソンはまじめな図書館員,過去には酒とクスリにおぼれホームレスになったこともあるが,本に目覚め立ち直り今は図書館で正職を得ている.彼の勤めるオハイオ州シンシナチ市中央図書館は,一定数のホームレスが(特に冬場は)一日中館内で過ごし,グッドソンも彼らとは顔見知りだ.5_20210720095601
ある冬の日,シンシナチを猛烈な寒波が襲う.シェルターは満杯,シェルターに入れなかった100名ほどのホームレスたちは,閉館時刻が来ても退館しないと宣言して3階に集まる.巻き込まれたグッドソンは,彼らを追い出せば凍死者が出ると考え,彼らと共に3階に立てこもることにする.
3_20210720095601 市警からは交渉人が来て説得にあたるが,次の選挙で市長を狙う検察官・デイヴィスの偏見に満ちたコメントや,TVレポーター・レベッカのセンセーショナルな報道で,グッドソンは精神を病んだ危ない容疑者にされてしまうが….
いくつも公共の機関はあるが,図書館はその中でも特別な存在である.図書館は役所や警察のように市民に命令することはしない一方,市民の知的要請に応え,市民の個人情報を守るためには闘わなければならない(日本の図書館も無論そうである).4_20210720095601 その図書館にホームレスが凍死を避けるために逃げ込んだ時,「公共」はどう動くべきか.この映画はその答えを提示するファンタジーだ.
グッドソンは「公共」はホームレスの側に立つべきだと考える.検察官デイヴィスは,退館時間を破って残ったホームレスは警察力で叩き潰すべきと,躊躇なく考える.交渉人はその間で苦悩する.ではホームレスたちは,どのような結論を出すか.2_20210720095601
ホームレスの側には最終的に図書館長も身を投じるのだ.図書館長の「公共図書館はこの国の民主主義の最後の砦だ」というセリフには,しびれた.TVレポーター・レベッカの電話インタビューに,グッドソンが「怒りの葡萄」の最後のパラグラフを朗読するシーンも素敵.結末には静かな深い感動がある.
手応えある映画,一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点).エミリオ・エステヴェスLove.
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2021/07/17

独断的映画感想文:イーダ

日記:2021年7月某日
映画「イーダ」を見る.1_20210718154501
2013年.監督:パヴェウ・パヴリコフスキ.
出演:アガタ・チュシェブホフスカ(アンナ),アガタ・クレシャ(ヴァンダ),ダヴィッド・オグロドニック(リス),イェジー・トレラ(シモン・スキバ),アダム・シシュコフスキ( フェリクス・スキバ) .4_20210718154501
1962年,ポーランド.孤児として修道院で育てられたアンナ,一生修道生活を送るための修道誓願の時期が近づいている.院長はアンナの唯一の肉親である伯母・ヴァンダに一度会って来るようにと,アンナを送り出す.ヴァンダが自分を引き取ることを拒否していることを知って,アンナは気が進まなかった.2_20210718154501
ヴァンダのもとを訪れると,彼女は酒と煙草に耽溺し,昼間から男と自室で寝ている女性だった.戸惑うアンナにヴァンダは,アンナの本名はイーダ・レベンシュタイン,ユダヤ人であると告げる.彼女を引き取らなかったのも,ユダヤ人であることを明らかにしないためだったと言う.3_20210718154501
イーダの両親は,大戦末期に非業の死を遂げたらしい.イーダとヴァンダは,両親の住んでいた村に車で向かうことになる.イーダの生家はそのまま残っていたが,今は別の人が住んでいる.その住人シモンは,彼の父・フェリクスがイーダの両親をかくまったが,フェリクスは入院中で詳細は判らないと言う.ヴァンダは,イーダの両親を殺したのはフェリクスか,その時預けていたヴァンダの息子も同時に殺したのではないかと,追及する.6_20210718154501
ヴァンダとイーダはその夜村のホテルに泊まり,ホテルのバーでは昼間ヒッチハイクで車に乗せた青年・リスが,サックスを演奏していた.その夜,シモンがイーダのもとに来て,自分が彼らを殺したこと,翌日埋葬場所に案内することを告げた….
大戦中のポーランドの暗黒を描いた映画.ヴァンダは戦中レジスタンスとして戦い,戦後は共産党政権下で検事として働いていた.
ヴァンダから告げられた,過酷な過去の歴史に向き合うイーダの姿が淡々と描かれる.登場人物は寡黙で,説明は映像で行われる映画,モノクロ・スタンダードの画面が,緊張感に満ちている.埋葬の森の暗い情景,放棄されたユダヤ人墓地の荒れ果てた佇まいが痛々しい.5_20210718154501
一方,映画で演奏される音楽はその緊張をわずかに和らげているようで,印象的.ヴァンダが自室で蓄音機で聞くモーツァルトをはじめとするクラシックの曲,リスが演奏するジョン・コルトレーンのジャズ,リスの伴奏で歌手が歌うポップス(1961年サンレモ音楽祭準優勝の「24000のキッス」が懐かしい).ヴァンダの運命,イーダの選択をはじめ,考えさせられることの多い映画,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2021/07/02

独断的映画感想文:最初の晩餐

日記:2021年7月某日
映画「最初の晩餐」を見る.1_20210704162701
2019年.監督・脚本:常盤司郎.
出演:染谷将太(東麟太郎),戸田恵梨香(北島(東)美也子),窪塚洋介(東シュン),斉藤由貴(東アキコ),永瀬正敏(東日登志),森七菜(東美也子(少女時代)),楽駆(東シュン(青年時代)).
主人公・麟太郎はフリーになって間もないカメラマン,その父で元登山家の日登志が死んだ.麟太郎は福岡に帰り父の葬儀に出席する.姉・美也子も夫と2人の子どもと共に来る.6_20210704163801
親戚が集まって通夜となるが,母・アキコは遺言だからと言って,自分で振舞料理を作り始める.その最初の皿は目玉焼きだった.麟太郎は母と最初に会った日を思い出す.20年前,麟太郎7歳,美也子11歳の時に,アキコは17歳のシュンを連れて嫁いできた.その最初の日にアキコは盲腸で入院,父が作ってくれた料理が目玉焼きだった.アキコが作る振舞料理に次々と思い出は重なる.
シュンと姉弟は次第に打ち解け,アキコも姉弟の心を掴んで,家族が徐々に出来ていった.しかしある日,アキコの前夫が亡くなった知らせが届く.しばらくしてシュンの22歳の誕生日に,日登志はシュンと2人で登山に出掛ける.翌日帰ってきた2人,シュンはその日に家を出て,二度と帰ってこなかった….5_20210704162701
一度崩壊した家族の再生をめぐる物語.麟太郎は恋人がいるが,家族というものに確信が持てず結婚に踏み切れない.美也子も夫をないがしろにする態度が見え,夫婦仲はうまくないようだ.ただ,シュンが出て行った後の15年間,残された4人がどのような状況で暮らしてきたのかは全く触れられず,この点は釈然としない.麟太郎・美也子ともどもアキコに対してはぎごちなく,家族は修復されなかったままに見える.3_20210704163101
シュンが15年前に家を出ていった理由は,最後にアキコから明かされる.また,終盤こつ然と現れたシュンの行動がこの辺を理解するカギの様で,結局大人として家族の崩壊を受けとめ得たシュンと,その時まだ子供だった麟太郎・美也子との違いがあったと思われる.
実力派俳優たちがそれぞれに好演し,その演技はなかなかに見ごたえがある.特に窪塚洋介の存在感は圧倒的だ.音楽も美しく,映画らしい映画だった.4_20210704163101
舞台は福岡,アキコとシュン以外の登場人物は皆福岡弁を喋るが,ロケ地は長野県上田市だそうで,交通案内等に福岡の地名が出ているのはどうやって撮ったのか,興味深い.
★★★☆(★5個が満点).
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2021/06/28

独断的映画感想文:いとみち

日記:2021年6月某日
映画「いとみち」を見る.1_20210629142101
2021年.監督:横浜聡子.
出演:駒井蓮(相馬いと),豊川悦司(相馬耕一),黒川芽以(葛西幸子),横田真悠(福士智美),中島歩(工藤優一郎),古坂大魔王(成田太郎),ジョナゴールド(伊丸岡早苗),宇野祥平(青木),西川洋子(相馬ハツヱ).6_20210629142101
いとは16歳の高校1年生,津軽三味線は県大会で特別賞を取った実力.幼い時母に死に別れ,東京生まれの父と津軽三味線の名手の祖母と暮らす
祖母になついて育ったいとは訛りがきつく,人見知りの性格もあって友人はいない.最近は三味線も手にしない日々が続く.そんな自分を打ち破ろうと始めたアルバイトは,青森市の「津軽メイドカフェ」だった.5_20210629142101
最初はろくに口もきけなかったいとだが,ハンサムで頼りになる店長工藤,自称「永遠の22歳」の葛西幸子,漫画家を目指す福士智美ら同僚と個性ある常連客に囲まれ,次第に打ち解けていく.クラスでやはり孤立している秀才伊丸岡早苗とも友人になることができた.ところがある日オーナーの成田逮捕のニュースが流れる.カフェは存亡の危機に立つが….3_20210629142101
よくある女子高生の成長の物語.その女子高生が津軽弁がきつく,三味線が得意というのが物語のポイント.
いとと祖母ハツヱの津軽弁は半端ではない.画面には字幕も出ないから聞き取るしかないが,少なくとも映画の前半は何を言っているか基本判らない(それで映画が判らないということはないが).2_20210629142101
一方いとの三味線はなかなか素晴らしい.主演の駒井蓮は,青森県出身なので津軽弁はネイティブだが,津軽三味線は1年間の特訓で覚えたとのこと.祖母役でプロの演奏家・西川洋子との連れ弾きシーンも良いが,メイドカフェで引く「津軽アイヤ節」の独奏が感銘的だ.4_20210629142101
岩木山をはじめとするこの地方の風物を描くカメラも美しく,また音楽映画にふさわしい音響も素敵.母との思い出などがしみじみと描かれる一方,クスっとさせる小ネタがちりばめられているのも嬉しい(相馬家の玄関に常備してある乾し餅(?)を家出に際しいつもの様に持たされるシーン,映画「八甲田山」のテーマ曲「雪の進軍」を突然父親が歌いだすシーン,伊丸岡早苗の好きなバンドが知る人ぞ知る「人間椅子」だというシーン等々).見て損は無し.
★★★☆(★5個が満点).
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2021/06/24

独断的映画感想文:そして、私たちは愛に帰る

日記:2021年6月某日
映画「そして、私たちは愛に帰る」を見る.0_20210626204701
2007年.ドイツ/トルコ.監督:ファティ・アキン.
出演:バーキ・ダヴラク(ネジャット),トゥンジェル・クルティズ(アリ),ヌルギュル・イェシルチャイ(アイテン),ハンナ・シグラ(スザンヌ),ヌルセル・キョセ(イェテル),パトリシア・ジオクロースカ(ロッテ).2_20210626204101 ブレーメンに住むトルコ出身のアリは男やもめの年金生活者.馴染みになったトルコ人の娼婦・イェテルに,手当てを払うから一緒に暮らそうと持ち掛ける.トルコにいる娘・アイテンの学費のため申し出を受けるイェテル.同居する息子の大学教授・ネジャットとは心が通い合う.一方,家でも彼女を娼婦扱いするアリに反発するイェテル,激高したアリは彼女を殴って死なせてしまう.イスタンブールのイェテルの葬儀に参列したネジャットは,アイテンの行方を捜そうと教授の職を辞し,ドイツ書店を引き継いで現地にとどまる決意をする.5_20210626204101 一方,亡き父と同じ左翼の活動家となっていたアイテンは,当局に追われドイツに逃亡,大学の食堂で知り合ったロッテと愛し合う仲となる.ロッテの協力で母イェテルを探すアイテン,しかし不法滞在で逮捕され,政治亡命は認められずトルコに送還される.ロッテは母・スザンヌの止めるのも聞かずイスタンブールに渡り,偶然知り合ったネジャットの家に下宿して,アイテン救援に没頭する.ようやくアイテンと面会できたロッテ,しかしその日アイテンに依頼された活動を果たそうとして,街角で命を落とす….3_20210626204101 この後ネタバレがあります.数奇な運命をたどる3組の家族が,悲劇を乗り越え新しい関係を作っていく物語.アイテンはロッテの死に深い衝撃を受け,スザンヌとの面会で心から詫びる.娘たち世代とは深い溝を感じていたスザンヌも,ロッテの願ったアイテンの救出に心を砕く.ネジャットもスザンヌと話をするうち,父ともう一度会う決心をする.4_20210626204101 実はイェテルの物語とアイテンの物語は時系列に差があり,更にロッテとネジャットはお互いに相手がアイテンを探していることを知らず,その経過は観客だけが知っているという構造になっている.そのことは映画に運命的なものを感じさせる要素となっている.冒頭のシーンが物語のラストシーンだったという構成も,印象的.背景となるドイツとトルコの関係も興味深い.映画らしい映画,見応え充分.
★★★☆(★5個が満点).
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2021/06/23

独断的映画感想文:存在のない子供たち

日記:2021年6月某日
映画「存在のない子供たち」を見る.1_20210625165901
2018年.監督:ナディーン・ラバキー.
出演:ゼイン・アル・ラフィーア(ゼイン),ヨルダノス・シフェラウ(ラヒル・シファラ),ボルワティフ・トレジャー・バンコレ(ヨナス),カウサル・アル・ハッダード(スアード),ファーディー・カーメル・ユーセフ(セリーム),シドラ・イザーム(サハル),アラーア・シュシュニーヤ(アスプロ),ナディーン・ラバキー(ナディーン).
レバノンの少年刑務所に収監されている少年・ゼイン.出生証明はなく12歳らしいが,7~8歳の体格しかない.
法廷に現れたゼイン,実は彼は両親を訴えた原告なのだ.裁判長の何を訴えたいのかという問いに,「育てられないなら生むな」と彼は言う.
ゼインの家は子だくさんの極貧の家族.ゼインに出生証明はなく学校にも行けない.長子として下の子の面倒を見ながら,大家で食料品店を営むアサードの店で働き,さらに物売りとしても働いている.
美しい妹のサハルを溺愛しているが,彼女に初潮が来ると,父がアサードにサハルを売るのを警戒して,それをひた隠しにする.更にサハルを連れて逃げようと準備をするが,父はある日泣き叫ぶサハルを強引にアサードの店に連れていった.絶望したゼインは家を出るが….3_20210625165901
この後ゼインは遊園地で働くエチオピア人の女性・ラヒルに拾われ,赤子のヨナスの面倒を見ることを条件に,その家に同居する.毎日懸命にヨナスの世話をするゼイン,一方ラヒルは偽造身分証の更新を業者アスプロに高値で吹っ掛けられ,金が都合できなければヨナスを売れと脅されている.ある日市場に出かけたラヒルは,その場で不法滞在者として逮捕された.帰ってこないラヒル,ゼインは考え付くありとあらゆる手段でヨナスと二人の生活を維持しようとするが,遂に大家に家を追い出される.追い詰められたゼインは,ヨナスをアスプロの手に預けた….2_20210625165901
自ら出演した監督以外は,ほとんどがスラム出身の素人俳優が演じた映画.レバノンの貧民街で,難民であるシリア人ほどの支援も公的には受けられないスラムの住民たちや,出稼ぎの不法在留者たちの状況を描く.
ゼインは12歳ながら何ものも信じず,公的支援も当てにせず,しかし誠実に弟妹達やヨナスの面倒を見ようとする.学校に行けず(字は読めるのだろうか,計算は出来るのだろうか?),しかし世俗の知恵は大人顔負けだ.そのゼインが死力を尽くしてサハルやヨナスのために働く姿は,涙を禁じ得ない.4_20210625165901
絶望的な経過をたどる映画だが,最後に2つだけ小さなハッピーエンドがある.その一つはゼインとラヒルの証言でアスプロの人身売買組織が摘発され,ラヒルが国外追放される直前にヨナスが母の手に戻ること.
もう一つは刑務所でゼインが写真を撮られるシーン.ムスッとしてカメラに向かうゼイン,しかし係官から「これはお前の身分証用の写真だ」と言われ,思わず微笑む.長い映画の間で唯一のゼインの微笑み,しかしその笑顔は美しい.5_20210625165901
本作は第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞をはじめ,各国の映画祭で受賞.アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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2021/06/12

独断的映画感想文:ANNA/アナ

日記:2021年6月某日
映画「ANNA/アナ」を見る.Anna5
2019年.監督:リュック・ベッソン.
出演:サッシャ・ルス(アナ),ルーク・エヴァンス(アレクセイ・チェンコフ),キリアン・マーフィ(レナード・ミラー),ヘレン・ミレン(オルガ).Anna4
映画の冒頭,ロシアで逮捕される9人のCIA.新任のKGB長官ワシーリエフの指示で殺されたのだ.
両親を交通事故で瞬時に失ったアナは,犯罪者の夫に支配されるどん底から這い上がろうと,軍に志願する.英語ができてチェスの才能があったアナは,過酷な採用試験後,アレクセイの推薦を得てオルガの許可を勝ち取り,KGBに所属することになる.Anna3
いくつかの暗殺に成功した後,モスクワの市場でスカウトされパリでモデルデビューしたアナは(その様にスカウトが誘導されたのだ),一流モデルとして成功をおさめ,その一方でヨーロッパでの要人暗殺に成功する.しかしイタリアでの要人暗殺の作戦でアナはミスを犯して….Anna2
KGBのエージェントとして大成功をおさめながらCIAのダブルスパイともなったアナ,しかしその究極の目的は自由だ.
すさまじい殺人能力と女性としての魅力を駆使して目的に近づこうとするアナ.一方でその個性はKGBのアレクセイ,CIAのレナードをも虜にする.Anna1
この映画の面白さは,アクション映画としてもさることながら,アナという女性の苦難の旅路を描く点にもある.リュック・ベッソンの本作はテンポよくアクションがスピーディー.最後まであっという間に見た.主演サッシャ・ルスの美貌と身体能力は半端ではない.ルーク・エヴァンス,ヘレン・ミレンも魅力的.
★★★☆(★5個が満点).
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2021/06/10

独断的映画感想文:よこがお

日記:2021年6月某日
映画「よこがお」を見る.1_20210717211801
2019年.監督:深田晃司.
出演:筒井真理子(白川市子・リサ),市川実日子(大石基子),池松壮亮(米田和道),川隅奈保子(大石洋子),小川未祐(大石サキ),須藤蓮(鈴木辰男),大方斐紗子(大石塔子),吹越満(戸塚健二).2_20210717211801
訪問看護ステーションで働く看護師・市子は,献身的で誠実な業務で好評を得る.もと画家である大石家の気難しい祖母を看護し,家族の信頼も厚い.引きこもりだった基子は市子に傾倒,介護士を目指して妹の高校生・サキと共に勉強を市子に見てもらっている.
ある日2人の勉強を見ている喫茶店で,市子は甥の辰男と行き会う.その後サキが行方不明となる事件が発生,数日後発見されるが,サキを拉致監禁していた犯人は辰男だった.市子は辰男が甥であることを,サキと基子の母・洋子に告げようとするが,市子が大石家に出入りしなくなる事態を恐れた基子の強硬な反対で思いとどまる.5_20210717211801
しかし市子が子連れの医師・戸塚と近々結婚すると知った基子の態度は豹変,メディアに辰男と市子の関係を伝え,市子を中傷する情報をメディアに流す.メディアが事業所や自宅を取り巻き,市子は仕事も自宅も戸塚もすべてを失う結果となる….3_20210717211801
映画の冒頭は,全てを失った市子が変名で基子の恋人・和道に近づき,基子から彼を奪い取るべく働きかけるシーン.市子の不条理な状況は判るし,基子への復讐を目指す心理状態もわかる.しかしこの映画には曖昧なところが多すぎる.
辰男はなぜサキを襲ったのかは,全く説明されない.時系列が良く判らないことも映画を理解し難くしている.ラストシーンは事件からどのくらいたった後だったのか(辰男は刑務所から出てきたし基子はもう介護士として働いているので,数年は経っているのかもしれない).あいまに挿入される,市子の精神の動揺を示すような妄想シーンも,腑に落ちないままだ.回収されない伏線らしい映像も,妄想だったのかもしれないが,区別は出来ない.4_20210717211801
見終わった後に「?」がいくつも残る作品.ヘアヌードまで見せた俳優が気の毒だ.★★(★5個が満点).
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2021/05/31

独断的映画感想文:象は静かに座っている

日記:2021年5月某日
映画「象は静かに座っている」を見る.1_20210602185101 2018年.監督:フー・ボー.
出演:チャン・ユー(ユー・チェン),ポン・ユーチャン(ウェイ・ブー),ワン・ユーウェン(ファン・リン),リー・ツォンシー(ワン・ジン).6_20210602185101 失業して家に居る父親と衝突する日々を過ごすブーは,友人カイが不良のシュアイの携帯を盗んだと絡まれているのをかばううち,シュアイが階段から転落し救急搬送される結果となる.現場から逃走したブーは,遠くに逃げようと考える.
シュアイの兄:チェンが親友の妻と寝た朝,その親友が突然帰宅する.親友はチェンを見るとそのまま高層アパートの窓から飛び降りる.親友の妻はチェンのことを警察には言わなかったが,チェンは親友の母親に,自分が自殺現場に居合わせたことを告白する.
ブーと同じ狭いアパートに娘一家3人と暮らしているジンは,老人ホームに行くよう勧められるが,愛犬が飼えなくなるからと断り続けている.ところがこの日,愛犬は迷い犬に咬み殺されてしまった.飼い主は開き直り,逆に自分の犬の心配をするばかり.娘はこれで老人ホームに行けることになったと喜ぶ.4_20210602185101 ブーの同級生リンは母子家庭の子,仕事に多忙な母親から罵倒され続ける生活を送る.心のよりどころを担任教師に求め関係を持つが,その現場を盗撮した動画がネットに拡散し身の置き所を失う….
第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞および最優秀新人監督賞受賞作,4時間に近い大作は,監督のデビュー作であり遺作でもある.
さびれた田舎町で鬱屈した日々を送り追い詰められた4人の男女,彼らはその田舎町に掲示された,満州里のサーカスにいる,只一日座っているだけの象のポスターを見ている.それぞれの経緯で街に居られなくなった彼らが,満州里を目指す旅に出立する物語.
2_20210602185101長尺の映画だが,長さを感じることはなく,むしろゆったりとした映画の流れに身を任せる愉楽を味わうことができる.出だしは一種の群像劇と思われたが,長い時間の中でさまざまに描写されていくうちに,彼らの相互の関係や抱えた状況の詳細が,自然に身に染み込んでいく.
映像には特徴があり,被写界深度を浅くしたカメラが人物の大写しをするその背後で,物語が進行していく.普通の映画では,観客は物語の進行に必要な情報を十分に与えられる「神の目」を持つのに対し(例えば主人公が手紙を読むときはその文面が直ちにクローズアップされる),この映画では背後にぼんやり映る情景から,物語の進行を読み取らねばならない.その大写しされる演技者たちはいずれも達者で,映画の緊張感を必要にして充分に表現している.
長回しが多用されることも大きな特徴だ.俳優たちのセリフも,あたかもシェークスピア劇の様に美しくまた多義的である.中でも,チェンが本来の恋人と会い,食事を共にし,結局別離する長いシーンは,哀切だ.5_20210602185101 映画という芸術の持つ力を堪能できる映画,一見の価値あり.★★★★☆(★5個が満点).
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