2023/01/29

独断的映画感想文:あなたの名前を呼べたなら

日記:2023年1月某日
映画「あなたの名前を呼べたなら」を見る.1_20230131212301
2018年.監督・脚本:ロヘナ・ゲラ.
出演:ティロタマ・ショーム(ラトナ),ヴィヴェーク・ゴーンバル(アシュヴィン),ギータンジャリ・クルカルニー(ラクシュミ).
ラトナは富豪の御曹司アシュヴィンのマンションに住み込みで働くメイド.休みをもらって久しぶりに実家に帰ったのに,携帯で呼び出される.アシュヴィンが結婚する筈だった花嫁サヴィナの浮気がばれ,結婚は取りやめになったのだ.ラトナはムンバイに戻り,傷心のアシュヴィンの世話に専念する.3_20230131212301
ラトナは19歳で結婚,しかし花婿はすでに死病にとりつかれており4カ月後に亡くなった.婚家は花婿の病気を隠していたのだ.ラトナは田舎の因習により,その後一生を婚家の未亡人として生きなければならなかった.ラトナはムンバイに働きに出たいと願い,口減らしのため婚家もそれを認めた.ラトナはメイドとして働き,稼ぎを妹の学費にもう4年も送り続けている.妹には自分のような人生を歩ませたくないのだ.
一方,アシュヴィンはニューヨークで文筆家を目指していたが,建築業の父を継いだ兄が亡くなったため呼び戻され,父のもとで働いている.ラトナはデザイナーとして自立したい夢があり,アシュヴィンの許しを得て裁縫の勉強に励んでいる.アシュヴィンも懸命に働くラトナに好意を持つようになった.しかしラトナの妹が学業半ばで結婚することを知らせてくる.ラトナの4年間の送金は無駄となった….2_20230131212301
ラトナとアシュヴィンは立場は違うが,因習や階級社会の建前に縛られ,思い通りの人生を送れないことに変わりはない.二人は互いに好意を持つが,ラトナは未亡人として婚家の支配下にある.アシュヴィンが食堂で食事をし,ラトナは台所の床に座って食事をしなければならない現実は,変えることは困難だ.4_20230131212301
ラトナはアシュヴィンの願いにも拘らず彼を名前では呼ばず,「旦那さま(SIR)」と呼び続ける.ラトナとアシュヴィンを演じる俳優がいずれも印象的,二人がインドの現実に前向きに向かっていく物語が素敵だ.映画はハッピーエンドではないが,希望の光がほの見える中に終了する.インド映画らしく幾つか挟まれるインド歌謡が,いずれも明るく陽気で楽しい.原題はSIR,邦題はいかにも甘ったるくあまり適切ではない.他の国ではそれぞれセニョールとかムッシューとかになっている.
★★★☆(★5個が満点)
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2023/01/13

独断的映画感想文:リスペクト

日記:2023年1月某日
映画「リスペクト」を見る.5_20230131120401
2021年.監督:リーズル・トミー.
出演:ジェニファー・ハドソン(アレサ・フランクリン),フォレスト・ウィテカー(C.L.フランクリン師),マーロン・ウェイアンズ(テッド・ホワイト),メアリー・J・ブライジ(ダイナ・ワシントン),オードラ・マクドナルド(バーバラ・フランクリン),タイタス・バージェス(ジェームズ・クリーヴランド師),マーク・マロン(ジェリー・ウェクスラー),スカイ・ダコタ・ターナー(幼少期のアレサ),ヘイリー・キルゴア(キャロリン・フランクリン),セイコン・セングロー(アーマ・フランクリン),ヘザー・ヘッドリー(クララ・ウォード).3_20230131120401
アレサは幼少時から,伝道師で歌手でもある父の巡業に同行して歌を歌っていた.母は離婚して別居していたが,月に一度ゴスペル歌手でピアニストでもある母の家に行くことが,アレサには無上の喜びだった.しかし母はアレサが幼いうちに急死してしまう.父の家には様々な男女が出入りし,アレサは12歳の時に妊娠し子どもを産む.子どもは曾祖母にあたるバーバラが面倒を見た.
アレサは16歳の時に父の勧めで歌手デビューをするが,何でも歌える器用さが災いしてヒットには恵まれなかった.19歳のとき父の反対を押し切りマネージャーのテッド・ホワイトと結婚する.24歳の時アレサはアトランティック・レコードに移籍,敏腕プロデューサー:ジェリー・ウェクスラーは彼女のゴスペル性を重視し,アラバマのフェイム・スタジオで録音を開始する.この方針が当たり,彼女は待望のヒット曲を連発,25歳でオーティス・レディングのカヴァー「Respect」で全米1位を獲得した.しかしテッドの暴力により結婚は破綻する….2_20230131120401
アレサ・フランクリンの半生を描く音楽映画.その波乱に富んだ人生を,1972年ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行われたゴスペル・アルバム「Amazing Grace」のライブ録音まで綴る.このライブでアレサは父と和解,アルバムも大成功を収めた.またこのライブ映像は,2018年に「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン」として公開されている.4_20230131120401
この映画ではなんと言ってもジェニファー・ハドソンの歌唱が感動的.彼女は歌唱録音のライブにこだわったと云う.つまりこの映画の歌唱は,スタジオ録音のアフレコではなく,全て撮影現場のライブ録音なのだ.1_20230131120401
更に音楽が生み出されていく過程の描写が素敵.フェイム・スタジオでの録音,ミュージシャンにアレサがピアノを弾きながら主題とリズムを示す.そこにベースがベースラインで参加,ギター・ドラムスが加わっていき,最後にブラスセクションも参加する.このスリリングなシーンが素晴らしい.同様なシーンは「Respect」の録音場面でも見られ,ここではアレサが歌い始めると,バックコーラスを担当する二人のアレサの姉妹が即興で,目を見張るようなコーラスをつけていく.音楽が生まれる瞬間がいずれも感銘的だ.エンドロールに流れるアレサ自身が歌う「ナチュラル・ウーマン:(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」も印象的.誠に見応え・聞きごたえのある映画.
★★★★☆(★5個が満点)
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2022/12/24

独断的映画感想文:ケイコ 目を澄ませて

日記:2022年12月某日
映画「ケイコ 目を澄ませて」を見る.1_20221225224001
2022年.監督:三宅唱.出演:岸井ゆきの(小河ケイコ),三浦誠己(林誠),松浦慎一郎(松本進太郎),佐藤緋美(小河聖司),渡辺真起子(五島ジム・オーナー),中村優子(医師),中島ひろ子(小河喜代実),仙道敦子(会長の妻),三浦友和(会長),足立智充.6_20221225224001
ケイコは聴覚障がい者,荒川土手下の小さなジムで,プロボクサーとしてトレーニングに励む.ホテルの客室係として働き,ミュージッシャンを目指す弟とルームシェアして暮らす日々.プロとしては2戦2勝,しかし次の試合が2カ月後にある.一方,会長は高齢で体力も衰え,ジムを閉める決断を固めつつあった.ケイコにとって唯一のいきがいであるボクシング,しかしケイコはジムにとって自分の存在が差し障りになっているのではないかと悩み,闘志が乱れる日々を過ごしている….5_20221225224001
寡黙な映画である.ケイコはほとんどしゃべらない(映画でのケイコの台詞は「はい」が2回あるのみ).ケイコは詳細な日記を書いているが,それ以外の人とのコミュニケーションは,ほとんどがボクシングのトレーニングで行われる.ロードや縄跳びの繰り返し時の平穏な表情,スパーリングが精度を上げていった時の思わず浮かぶケイコの微笑み.ケイコと会長の感情の結びつきも印象的だ.ケイコと会長が鏡の前で二人で同じ型を繰り返すシーン,会長がケイコの視線に合わせて座り込みジム閉鎖を詫びるシーンには,涙を禁じ得ない.2_20221225224001
ケイコが何を考え何を悩んでいるかは,ケイコの独白もなく観客もケイコの表情と動きから推察するしかない.試合にケイコはどう向かっていくのか,その結果ケイコはどうなるのか,映画は高い緊張感のまま,結末に進む.3_20221225224001
俳優では岸井ゆきのが圧倒的力量,彼女の映画を見るのは4作目だが,これほどひりひりする演技を見せられたのは初めて,まことに印象的だ.聴覚障碍者がボクシングをすることについての会長の言葉「ケイコはレフリーの声も聞こえずゴングも聞こえずセコンドの指示も聞こえない.危険極まりないのです」も,心に残った.でもそのことを訴える映画ではない.ケイコの人生を描く映画だ.見て損はなし.
★★★★☆(★5個が満点).
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2022/12/22

独断的映画感想文:とんび

日記:2022年12月某日
映画「とんび」を見る.1_20221226163101
2022年.監督:瀬々敬久.出演:阿部寛(市川安男),北村匠海(市川旭),杏(由美),安田顕(照雲),大島優子(幸恵),麿赤兒(海雲),麻生久美子(美佐子),薬師丸ひろ子(たえ子).
昭和37年,瀬戸内海に面した備後市.市川安男は体格に恵まれた一本気な男,父母を知らず叔父夫婦に育てられた身だが,街の運輸業に勤め従業員にも街の皆にも知られた男だ.愛妻の美佐子との間に一粒種の旭が生まれ,ますます張り切る安男.2_20221226163101
ところがある日,職場に来た旭の目の前で荷崩れ事故が起き,かばった美佐子は帰らぬ人となる.安男は寺の和尚海雲と息子の照雲夫婦の助けも借り,男手ひとつで旭を育てる.思春期の旭との間に生じる葛藤も乗り越えたが,旭は早稲田進学のため東京に行くことになる….3_20221226163101
重松清の原作の映画化.安男と旭の父子関係を軸とした物語.なんと言っても阿部寛の体躯と個性がこの映画を成立させている,それが誠に魅力的な映画.安男が乱暴者でめちゃくちゃな男ながら,皆に愛され力添えを受ける訳が,阿部寛の安男を見ていると良く判る.安男は体を張って先頭切って働き,仲間を領導する人物だ.5_20221226163101
一方,一本気な余り喧嘩は絶えず理不尽な暴力に及ぶこともある.安男が美佐子と結婚して,街中の人が一安心したのではないかというのも想像に難くない.その忘れ形見旭と安男への周囲の愛情も,共感せずにはいられない.しかし旭が一人の男として歩き始めた時,安男の胸中はどうだろうか.物語はさらに,旭が年上の子連れの女性と結婚を決意して,最終局面へと進む.6_20221226163101
周囲を固める俳優もいずれも手練れぞろい,安田顕,薬師丸ひろ子,大島優子らが存在感ある好演.見て損はなし.しかし麻生久美子って,いつも旦那に愛される妻なのにはかなく死んでしまう役をしているような気がする(まあ見たのは「散り椿」くらいですけど).
★★★★(★5個が満点).
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2022/12/12

独断的映画感想文:子供はわかってあげない

日記:2022年12月某日
映画「子供はわかってあげない」を見る.1_20221217183801
2020年.監督:沖田修一.出演:上白石萌歌(朔田美波),細田佳央太(門司昭平),千葉雄大(門司明大),古舘寛治(朔田清),斉藤由貴(朔田由起),豊川悦司(藁谷友充),高橋源一郎(古書店主).
映画の冒頭は延々とアニメ『魔法左官少女バッファローKOTEKO』の画面.朔田美波はアニメおたくの高2水泳部員.『魔法左官少女バッファローKOTEKO』の大ファンで,見終わると感動の涙を流す.2_20221217183801
ある日部活終了後に,屋上で「KOTEKO」の絵を描いている人影を発見し急行する.それは同じ高2の書道部員門司昭平クンだった.これをきっかけに「KOTEKO」つながりで親しくなった二人,美波が門司の家を訪ねるとそこは代々書家である門司家の大邸宅だった.そこで美波は門司の先代が書いた「お札」を発見するが,それは幼い時離婚して新宗教を起こした父から,最近美波宛に送ってきたお札と同一だった.お札は父の依頼で先代が字を書いたらしい.門司クンの勧めで美波は門司の兄・明大に父の居場所を捜索するよう依頼するが,あっけなく父・藁谷友充の所在は判明する.5_20221217183801
美波は水泳部の合宿に行くと云って,家族に内緒で父を訪ねることにする.父は教祖を引退し,指圧師として師匠とともに働いていた.ぎごちなく互いに挨拶し,二人の共同生活が始まるが….4_20221217183801
同名のコミックを原作とする実写映画化.実父との邂逅と交流,門司クンとのロマンスを描くひと夏の青春物語.コミックが原作らしく,オーソドックスながら罪のないユーモアで彩られた物語の展開が楽しい.3_20221217183801
この映画はとにかく上白石萌歌を見る映画,素直に育った美波によく合ったキャラが魅力的だ.終盤,屋上でぽろぽろと涙を流して泣く美波のシーンは印象的.対する門司クンも爽やかで,二人の出会いや登下校のシーンが長回しで描かれるが見応えあり.また周りを固める俳優も好演.原作がそうだから仕方がないが,悪い人は一人も出ずほんわかとした雰囲気で最後まで押し通す.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点).
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2022/12/01

独断的映画感想文:ザリガニの鳴くところ

日記:2022年12月某日
映画「ザリガニの鳴くところ」を見る.1_20221205174101
2022年.監督:オリヴィア・ニューマン.製作:リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッター.
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ(カイア),テイラー・ジョン・スミス(テイト),ハリス・ディキンソン(チェイス),マイケル・ハイアット,スターリング・メイサー・Jr,デヴィッド・ストラザーン(トム).2_20221205174101
1969年,ノースカロライナの湿地帯で,裕福な家庭の青年チェイスが死体で発見される.死因は近くに立つ火の見やぐらからの転落死とされ,事故・自殺・他殺が判然としない中,湿地帯に一人で住む女性カイアが犯人として逮捕される.カイアは街の人々から「湿地の娘」と呼ばれ異端視されていた.唯一彼女を知るのは,彼女が買い物をする店の黒人店主夫婦ジャンピンとメイベル,引退弁護士のトムのみ.トムの弁護で裁判が進む中,彼女の驚くべき半生が明らかになる.5_20221205174101
1950年代半ば,カイアは両親と4人の姉兄とともに暮らしていた.しかし父のDVが激しくなり,ついに母親は家を出てしまう.続いて姉二人,兄たちも次々と家を出,父とカイアの二人の生活となった.7歳となったカイアはジャンピンの勧めで小学校に行ってみるが,裸足で汚く臭いと苛められ,学校には二度と行かなかった.その数年後,父も家を出て行方不明となる.カイアは毎日ムール貝を採ってジャンピンの店に納め,代わりに生活必需品を受け取って一人で暮らしを立てる.その合間に,カイアは湿地帯の花や樹々,貝殻や虫や鳥たちを精密にスケッチするようになる.6_20221205174101
14歳の頃,森で出会った青年テイトは兄ジョディの友人,カイアは高校生のテイトと付き合うようになる.彼から読み書きを教わり図書館の本を読めるようになったカイア,テイトとカイアは愛し合うようになる.しかしテイトは父から「湿地の娘」と付き合わないよう警告を受ける.テイトは大学に進学することが決まり,その年の独立記念日に戻ってくると約束して旅立って行った.テイトはその時,カイアに動植物のスケッチと彼女の文章を本にするよう勧め,出版社の宛先をメモにして置いて行く.しかし独立記念日の日,テイトは帰ってこなかった….3_20221205174101
ディーリア・オーエンズのベストセラー小説の映画化,原作は未読.この5年後後,カイアは裕福な青年チェイスの誘いに応じつきあうようになる.一方,自分の書き溜めたスケッチと文章を出版社に送り,本にすることに成功する.その印税で彼女は未納の税金を払い,自宅と周辺の土地の所有権を確保した.出版した本を目にした兄のジョディとも再会した.しかしチェイスはカイアの他に婚約者がいて,カイアと争いになると暴力をふるい,更に彼女の自宅を荒らす行為に出たのだった.
映画は裁判の展開とカイアの過去を交互に描きながら進む.原作自体がかなり数奇な物語で,映画で描くときにいささか違和感や非現実感があるのは,否めない.しかしそんなことはどうでも宜しい.4_20221205174101
ノースカロライナの湿地帯の圧倒的な自然,独りでたくましく生きる少女カイアの美しさ,カイアを支えるジャンピンとメイベルの情愛,それらに引き込まれ最後まで一息に見た.主演のデイジー・エドガー=ジョーンズの存在感が素晴らしい.マイケル・ダナの音楽,テイラー・スイフトの主題歌も素敵だ.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点).

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2022/11/30

独断的映画感想文:名もなき歌

日記:2022年11月某日
映画「名もなき歌」を見る.1_20221204220101
2019年.監督:メリーナ・レオン.
出演:パメラ・メンドーサ(へオルヒナ・コンドリ),トミー・パラッガ(ペドロ・カンポス),ルシオ・ロハス(レオ・キスぺ),マイコル・エルナンデス(イサ).2_20221204220101
1988年,ペルー.ヘオルヒナとレオは若い夫婦.ヘオルヒナはすでに妊娠しており,両親の祝福を受け故郷アヤクチョを出て,リマ近郊で暮らし始める.家は砂丘の中腹にある掘立小屋,その日暮らしの二人だ.
ラジオで無料の出産サービスを行っている財団の宣伝を耳にしたヘオルヒナは,早速その産院に出かけ検診を受ける.数日後産気づくと,独力で産院に行き無事出産した.5_20221204220101
しかし女の赤ちゃんは,ヘオルヒナが眠っているうちに検査のため病院に移されたと言われる.そのまま産院を追い出されたヘオルヒナ,翌日産院に行くとそこにはもう誰もいなかった.彼女はレオとともに警察や裁判所に訴えるが,極貧で有権者番号を持たない彼らは取り合ってもらえない.ヘオルヒナは新聞社に行き,そこで出会った記者のペドロは取材に乗り出してくれた….4_20221204220101
この後の記述にはネタバレがあります.
ペルー出身の監督が,実話をもとにモノクロ・スタンダードの画面で描く,社会派ドラマ.寡黙な映画で,ペルーの事情に詳しくない自分にとっては判り難い展開だ.3_20221204220101
ペドロの必死の捜索とヘオルヒナの努力で,同様な経験をした女性が数名見つかり,また海外へ養子縁組した赤子を送り出す組織の存在が浮かび上がる.しかし判明するのはそこまで.映画では一部の組織の摘発とそれに関与した汚職判事の罷免を伝える報道が明らかになるが,ペドロにこの問題に首を突っ込むなと警告する政治家や,ゲイであるペドロへの脅迫も明らかになる.
淡々と描かれていくペルー社会の貧困と格差,腐敗と偏見が胸を打つ.最後のシーンで,海を見つめながら一人で子守唄を歌い続けるヘオルヒナの歌声が,印象的だった.心に残る映画.
★★★★(★5個が満点).
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2022/11/19

独断的映画感想文:MINAMATA―ミナマタ―

日記:2022年11月某日
映画「MINAMATA―ミナマタ―」を見る.Minamata1
2020年.監督:アンドリュー・レヴィタス.出演:ジョニー・デップ(W・ユージン・スミス),真田広之(ヤマザキ・ミツオ),國村隼(ノジマ・ジュンイチ),美波(アイリーン),加瀬亮(キヨシ),浅野忠信(マツムラ・タツオ),岩瀬晶子(マツムラ・マサコ),ビル・ナイ(ロバート・“ボブ”・ヘイズ).Minamata2
1971年ニューヨーク.カメラマン:ユージ・スミスは自身の活動を終息すべく,子供へ金を残すため機材を売り払い,長年付き合いのあったグラフ雑誌LIFEとも袂を分かとうとする.そんな折,富士フィルムのコマーシャルのため通訳のアイリーンのインタビューに応じるが,アイリーンは彼に日本の公害病・水俣病の資料を渡し,訪日して水俣の写真を撮るよう訴える.沖縄戦に従軍カメラマンとして参加し,重傷を負って後遺症にも悩むユージンは当初断る.しかし資料を一読して水俣行きを決意,LIFE誌の編集長ボブ・ヘイズに水俣取材を了承させ,1971年アイリーンとともに水俣を訪れる.Minamata3
ユージンとアイリーンは胎児性水俣病児であるアキコの家に泊まることになった.父親のタツオは二人を歓迎するが,アキコの写真は撮ることを許さない.水俣病患者で自身も撮影をするキヨシや,自主交渉派のリーダー・ヤマザキはユージンを支持するが,多くの住民は撮影に非協力的だった.それでもキヨシの協力で暗室や機材の整った作業小屋が準備され,ユージンは取材を進める.
公害源と思われるチッソの附属病院に潜入したユージン,アイリーン,キヨシは,そこで患者の写真を撮るとともに,チッソが以前から自社の廃液が水俣病の原因だと知っていたことを示す研究資料を発見する.しかしチッソの株主総会が近づくと,警官が山崎の家に押し入り,また作業小屋はネガやプリントもろとも放火により焼失する.全てを諦め帰国しようとするユージン,しかしLIFEのボブの叱咤激励や地元の少年シゲルとの交流を通じ,ユージンは再度立ち上がる.ユージンは自主交渉派の住民の前で,患者の写真を撮影させて欲しいと懇願する….Minamata4
映画は冒頭,事実に基づく物語との表示があるが,本作はユージン・スミスという写真家の再生と,作品「入浴する智子と母」の完成に至る,水俣と水俣闘争を舞台とした物語と言って良い.そのために脚本では事実がかなり変更されているところがある.しかしそれは問題ではない.Minamata5
ユージンを演じるジョニー・デップの演技は迫力があり,映画の進行とともに引き込まれる.「入浴する智子(映画ではアキコ)と母」の撮影シーンは厳かな静けさに満ちていて,感銘的だ.結末では,その写真がLIFEに掲載され世界に配信されていく.共演者も実力派ぞろい,一見の価値あり.★★★☆(★5個が満点).
P.S.この映画を見て,あらためて若い時に見た土本典昭監督の水俣のドキュメンタリー映画を思い出した.患者さんの厳しい状況が淡々と映し出される一方,夢のように美しい水俣・不知火海の風景が心に染みついた記憶がある.
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2022/11/15

独断的映画感想文:あちらにいる鬼

日記:2022年11月某日
新宿ピカデリーで「あちらにいる鬼」を見る.1_20221120171301
2022年.監督:廣木隆一.出演:寺島しのぶ(長内みはる/寂光),豊川悦司(白木篤郎),広末涼子(白木笙子),高良健吾(小桧山真二),村上淳(秦),蓮佛美沙子(坂口初子),佐野岳(矢沢祥一郎),宇野祥平(新城),丘みつ子(白木サカ).3_20221120171301
1966年,文学講演会で初めて出会った長内みはると白木篤郎,二人は九州の講演会にみはるが出かけたとき,結ばれる.左翼系の作家として作品を発表し続ける白木,しかし女性に対しては文学サークルの女性や,水商売の女性を次々と口説いては関係を持っている.この時点で白木の妻・笙子は第2子を妊娠中,笙子は淡々と白木の愛人との手切れや後始末をこなし,白木の留守中に無事次女を出産する.5_20221120171301
白木は妻とは自宅新築の話を進め,みはるが若い愛人と別れて京都に住むようになると,その東京の別宅に入りびたるようになる.その一方で,他の女性との関係を隠そうともしない白木にみはるは思い悩み,遂にある決心を固めるが….2_20221120171301
作家井上光晴と瀬戸内晴美の不倫を,井上光晴の娘・井上荒野が小説化した原作の映画化.主人公の二人にこのキャスティングを得たのは,まことに適切で大成功である.監督の,表情のアップと長回しとを多用する撮り方に,笙子の広末涼子を含めた3人が見事にこたえ,見応えあり.特に後半,3人の人柄,性格,考え方が次第に浮き上がってくるにつれて,映画の緊張感は次第に高まる.
みはるの出家・剃髪からラストシーンに至る過程は,感銘的で涙を禁じ得なかった.2_20221120171302
★★★★(★5個が満点)
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2022/11/02

独断的映画感想文:天間荘の三姉妹

日記:2022年11月某日
アップリンク吉祥寺へ,映画「天間荘の三姉妹」を見る.1_20221107205101
2021年.監督:北村龍平.
出演:のん(小川たまえ),門脇麦(天間かなえ),大島優子(天間のぞみ),高良健吾(魚堂一馬),山谷花純(芹崎優那),萩原利久(早乙女海斗),平山浩行(早乙女勝造),柳葉敏郎(魚堂源一),中村雅俊((友情出演)宝来武),三田佳子((特別出演)財前玲子),永瀬正敏((友情出演)小川清志),寺島しのぶ(天間恵子),柴咲コウ(イズコ).4_20221107205101
東北の海沿いにある三瀬村.老舗旅館・天間荘の若女将・のぞみが,妹かなえとともに緊張して玄関で待つ.タクシーで謎の女性イズコに案内され到着したのはたまえ,二人の異母妹だ.たまえは初めて見る海に夢中.浜辺で寝入ってしまう.
ここは現世とあの世の間にある世界,たまえは母に死なれ父は蒸発,天涯孤独の身で施設で生きてきた.働き始めた直後交通事故に遭って,今現世では生死の境にある.自分の魂をゆっくり休め,来世に旅立つか現世に戻るかを自分で決める場所が,この三瀬村だ.たまえは客としてこの天間荘に来たのだが,迎えたのぞみとかなえが異母姉妹と知り,自分も天間荘で働くと言う.5_20221107205101
天間荘の客・財前も現世では生死の境にいる.中居見習いとして働き始めたたまえは,財前に厳しくしごかれる.新たな客として優那がやってくる.いじめで自殺を図った彼女もやはり前世では生死を彷徨っている.自暴自棄になっている優那はたまえと次第に友情をむすぶようになるが….2_20221107205101
現世とあの世の間にある三瀬村とは,どういう場所なのだろう.天間荘の次女・かなえは村の水族館に勤めイルカを調教している.水族館には観光客も来ている.天間荘には毎日魚を納品する一馬も来るが,数馬とかなえは恋仲らしい.それらすべてがこの世ではないというのは,どういうことなのか.3_20221107205101
映画はその事情を次第に明らかにしつつ,この世の人ではない人々の行く末と,現世の人でもある財前,優那,たまえの運命を描いていく.主役のんの存在感が素晴らしく,その魅力に引き込まれた.共演する三田佳子,寺島しのぶ,永瀬正敏らの演技も味わい深い.見て損はなし.
ただ,全体としてはやや冗長で,150分の長尺にする意味はあまり感じない.カメオ出案の高橋ジョージやつのだひろ等も余計.
★★★☆(★5個が満点).
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