2025/07/14

独断的映画感想文:アンダーカレント

日記:2025年7月某日
映画「アンダーカレント」を見る.
2023,日本.監督:今泉力哉.脚本:澤井香織,今泉力哉.音楽:細野晴臣.1_20250717140201
出演:真木よう子(関口かなえ),井浦新(堀隆之),リリー・フランキー(山崎道夫),永山瑛太(関口悟),江口のりこ(菅野よう子),中村久美(木島敏江),康すおん(田島三郎),内田理央(藤川美奈).3_20250717140201
家業の月之湯を亡父から引き継いだかなえ,ところが夫・悟は1カ月前に組合の慰安旅行先で失踪してしまった.組合を通じて従業員を募集し,パートの木島と営業を再開したかなえ,ある朝堀と云う男が応募してやってくる.その日から堀は住み込みで働き始め,常連客も徐々に戻ってきた.暫くして堀はアパートに移り通いで働くことになった.常連の田島老人とも将棋を打つ中になったが,堀は無口で自分のこともほとんど話さない.2_20250717140201
かなえはある日スーパーで赤ん坊を連れた旧友・菅野と出会う.悟とも知り合いの菅野に,かなえは悟の失踪を打ち明け,菅野は知人の探偵・山崎を紹介してくれた.山崎はちょっと変わった胡散臭い風体,しかし悟のことをかなえから聞き取り,調査に取り掛かることになる.ところが最初の調査報告で,悟の両親は2年前まで健在だったことが分かった.悟からは自身が交通遺児で施設で育ったと聞いていて,母を早くに亡くした自分と心が通うところもあると思っていたかなえは呆然とする.ある日,月之湯の常連客・藤川美奈の8歳の娘が帰宅せず,ランドセルが路上で発見されるという事件が起こる.かなえはそれを聞いて気を失ってしまう….4_20250717140201
かなえは子どものころさなえという自分によく似た少女と親友だった.しかしさなえはある日事件に巻き込まれ近くの池で死んでしまう.かなえは以来,自分が首を絞められ水の中に沈んでいく夢を見るようになったのだった.かなえの心に残ったのはどういう傷なのか.悟は何故かなえに嘘をついていたのか.悟は何故失踪したのか.堀はどういう人物なのか.映画は終盤に向けその謎を明らかにしてゆく.5_20250717140201
コミックが原作の映画,登場人物は何となく物語の展開に都合のいい人物が多い.それを腕利きのベテラン俳優たちが何とかリアルな存在に感じさせるように奮闘している印象があって,面白い.真木よう子が,強気の様で繊細,てきぱきしているようで童女のような感じの主人公をうまく演じて見応えあり.田島を演じた康すおんも面白かった.嘘をつく悟,自身に封じられた記憶のあったかなえ,自分を語らない堀,この3人がどうなるのか.映画のあと味は悪くない.0_20250717140201
★★★☆(★5個が満点).
蛇足:この映画のポスターは,ジャズピアノの名人ビル・エヴァンスと同じくギターの名演奏家ジム・ホールの1962年のコラボレーションアルバム「アンダーカレント」のジャケット写真(右の写真)に,ヒントを得たものと思われる.ともに良いセンス.
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2025/07/08

独断的映画感想文:ミツバチと私

日記:2025年7月某日
映画「ミツバチと私」を見る.1_20250709152101
2023.スペイン.監督・脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン.
出演:ソフィア・オテロ(Lucia),パトリシア・ロペス・アルナイス(Ane),アネ・ガバライン(Lourdes),イツィアル・ラスカノ(Lita),マルチェロ・ルビオ(Gorka).2_20250709152101
フランス・バスク地方に住む8才のアイトールは朝から不機嫌.出かけなければいけないのに服が気に入らない,行きたくないと怒る.アイトールと呼ばれることがそもそも気に入らなくて,姉も兄も彼をココ(フランス語で可愛い子という一般名詞)と呼ぶが,その呼び方さえ嫌がるときもある.今日は皆で列車に乗りスペイン・バスク地方のお祖母ちゃんの家に夏休暇に行く.父ゴルカは留守番,母アネは亡父の工房で塑像を作成し,美術学校教員試験の提出物とするつもりだ.男の子の友達のいないアイトールは,同年齢の親戚のニコと仲良くなって心を許すが,祖母からはもっと男の子らしくするよう注意される.その中でミツバチを飼う叔母のルルデスはアイトールの気持ちを認め,女の子として接してくれる….3_20250709152101
男の子として生まれながら,自分の性自認に不安を覚える主人公の,葛藤と決意を描く.お祖母ちゃんや親戚の人たちは,髪の毛を切り少年らしくするようにと云う.父も髪を伸ばし中性的な服装を許すのは甘やかしだと考えている.母は当面は好きにさせておけば良いと考えているが,自身の塑像作成に打ち込んでアイトールのことに気が回らない.4_20250709152101
ルルデスは,一緒にミツバチの世話をしながらアイトールの不安に耳を傾け,そのままのアイトールを肯定する.ルルデスと共に行った礼拝堂で聖ルシア像を見たアイトールは,自分の名前はルシアがいいと言うのだった….5_20250709152101
幼くて自分の性自認に悩み,自分なりの結論を出す主人公に,感銘を受けた.映画の終盤,いなくなったアイトールを親戚が総出で探す場面で兄と母が「ルシア!」と呼んで探すシーン,ルシアが夕暮れの養蜂場で蜂の箱を一つずつ杖でノックしながら「蜂さん,蜂さん,ルシアですよ」と云って回るシーンが印象的.この困難な役を見事に演じたソフィア・オテロが,第73回ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞を史上最年少で受賞したのもうなずける.深い感動を得る映画.
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/07/04

独断的映画感想文:鉄道員 ぽっぽや

日記:2025年7月某日
映画「鉄道員 ぽっぽや」を見る.1_20250706213401
1999年.監督:降旗康男,撮影:木村大作.
出演:高倉健(佐藤乙松),小林稔侍(杉浦仙次),大竹しのぶ(佐藤静枝),広末涼子(佐藤雪子),奈良岡朋子(加藤ムネ),田中好子(杉浦明子),安藤政信(吉岡敏行),志村けん(吉岡肇),吉岡秀隆(杉浦秀男).2_20250706213201
北海道を舞台とする物語.佐藤乙松は,盟友杉浦仙次と共に,機関助手(釜焚き)からたたき上げ,機関手を経て今は幌舞駅の駅長を務める.幌舞はかっては炭鉱町で石炭列車が往来したが,閉山後の今は町もさびれ,本数も少ない幌舞線の終点を乙松が始発から終着まで一人で守る.4_20250706213201
乙松の妻静江は病弱でなかなか子どもに恵まれなかったが,17年目にようやく雪子を授かった.しかし雪子は生後2カ月で病死,静枝もその後病気で亡くなった.乙松は駅を離れられず,いずれの時も最期を看取れなかった.仙次は幌舞線の始点・美寄駅長,定年後は関連企業への就職が決まっている.仙次は乙松の定年後を心配するが,乙松は自分は鉄道員以外のことはできないと取り合わない.幌舞線の廃線が決まり,乙松の退職も迫るある日,駅に不思議な少女が現れる….3_20250706213201
高倉健主演映画の傑作の一つ,佐藤乙松の幌舞駅での最後の数日を,過去の追憶を織り交ぜて描く.舞台はほとんど幌舞駅と駅前のだるま食堂が中心だが,北海道の山河を背景に走る列車キハ40の映像が随所に挿入され,特に冬季の雪原を走る姿は感銘的だ.実直な乙松の駅長勤務の描写の中,喜び・哀しみのそれまでの人生が振り返られる.1_20250706213201
寡黙で涙を見せることさえ控えめな乙松を演じる高倉健が素敵だ.小林稔侍,大竹しのぶも好演.特に終盤の広末涼子と高倉健のシーンには,涙を禁じ得ない.広末涼子にはやはり特別な輝きがある.奥田民生作詞・坂本龍一作曲の主題歌も素晴らしい.数十年ぶりに見たがやはり色褪せない映画だ.
★★★★(★5個が満点).
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2025/07/03

独断的映画感想文:駅 STATION

日記:2025年7月某日
映画「駅 STATION」を見る.Station1
1981年.監督:降旗康男,脚本:倉本聰,音楽:宇崎竜童,撮影:木村大作.
出演:高倉健(三上英次),いしだあゆみ(三上直子),大滝秀治(相場),池部良(中川警視),寺田農(力石),烏丸せつこ(吉松すず子),根津甚八(吉松五郎),宇崎竜童(木下雪夫),北林谷栄(三上昌代),藤木悠(三上一郎),永島敏行(三上道夫),古手川祐子(三上冬子),田中邦衛(菅原),小松政夫(菅原義二),草野大悟(柳),平田昭彦(大田黒警視),織本順吉(留萌署長),小林稔侍(辰巳刑事),倍賞千恵子(桐子),室田日出男(森岡茂),佐藤慶(対策本部長).
北海道を舞台とする物語.1968年,刑事三上英次は離婚し,銭函駅で妻直子と息子を見送る.オリンピックの射撃の選手でもあった三上は,直子の一度の過ちも許せなかった.直後の検問で,英次の上司であり射撃の師匠でもある相馬が,連続射殺犯指名22号・森岡に射殺される.三上は犯人追及を志願するが,五輪優先との道警の命令で許されなかった.Station2
1976年連続通り魔殺人犯を追い,三上らは増毛駅前の風待食道を張る.従業員のすず子の兄・吉松五郎が犯人と目されたためだ.増毛の対岸は三上の故郷・雄冬だ.三上は五輪のコーチを兼任していたが,道警の命令でコーチを外され,捜査に従事することになる.すず子の愛人・雪夫の手引きで五郎は逮捕された.1979年暮れ,三上は雄冬への里帰りの帰路,欠航のため増毛の居酒屋・桐子に立ち寄った….
高倉健主演映画の傑作の一つ,スタッフ,キャストとも充実し見ごたえのある映画となった.往年の名優たちと若手の俳優たちが,高倉健を中心に好演している.宇崎竜童が,日本アカデミー賞助演男優賞を獲得した一方,この映画の音楽を担当し同最優秀音楽賞を獲得したのも素晴らしい.
三上と桐子が酒場で過ごす3夜に,いずれもTVから八代亜紀の「舟唄」が流れ,そのシチュエーションがどれも異なるという場面が心に残る.特に最後の夜,目を合わすこともできない二人の心情は哀切で,まことに印象的.数十年ぶりに見たが色褪せない映画だ.
★★★★(★5個が満点).
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2025/07/01

独断的映画感想文:コンペティション

日記:2025年7月某日
映画「コンペティション」を見る.1_20250702121601
2021年.スペイン・アルゼンチン.監督:ガストン・ドゥプラット,マリアノ・コーン.
出演:ペネロペ・クルス(ローラ・クエバス),アントニオ・バンデラス(フェリックス・リベロ),オスカル・マルティネス(イバン・トレス),ホセ・ルイス・ゴメス(ウンベルト),イレーネ・エスコラル(ダイアナ),マノロ・ソロ(マティアス),ナゴレ・アランブル(ジュリア),ピラール・カストロ(ビオレッタ),コルド・オラバリ(ダリオ).3_20250702121601
80歳になった大富豪ウンベルトは,自分の名声を高めようと映画に出資することにした.大枚をかけ映画化権をわがものにしたノーベル賞作家の小説を,パルムドール受賞監督のローラに託す.主演は映画界の大立者フェリックスと,舞台俳優の大御所イバン.この3人が揃って本読みが始まるが,本読みの段階から厳しいダメ出しや奇想天外なエクササイズを強要するローラと,奔放なプレーボーイであるフェリックス,理論家で教育者でもあるイバンの息は全く噛み合わない.制作現場には困惑と混乱が広がるが….4_20250702121601
映画はほぼこの3人の会話劇と云っても良いが,ローラの飛んでる場面設定や両俳優のそれぞれの演技が面白くて全く退屈しない.両俳優が主導権を得るために或いは相手を貶めるために,とんでもない行動に出たり嘘をついたりする展開も可笑しい.映画にはいろいろな伏線があり,それらの思いがけない回収のしかたも意表を突かれる.2_20250702121601
スペイン映画らしいおしゃれな建物やインテリア,原色鮮やかな家具や絵画をあしらった映像も美しく,ベートーベンやショパン,サティ,更にキーズ・ジャレット等を用いた映画音楽も素敵だ.本作はシニカル・コメディと称しているがその通り,結局はコメディなので気楽に最後まで見ていられるが,それぞれの場面は充分にスリリングで魅力的.見て損はなし.5_20250702121601
★★★☆(★5個が満点).
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2025/06/28

独断的映画感想文:千夜、一夜

日記:2025年6月某日
映画「千夜、一夜」を見る.1_20250630181601
2022年.日本.監督:久保田直.
出演:田中裕子(若松登美子),尾野真千子(田村奈美),安藤政信(田村洋司),ダンカン(藤倉春男),白石加代子(藤倉千代),平泉成(若松俊雄),小倉久寛(入江春弼).2_20250630181601
佐渡の漁港の水産工場で働く登美子,夫は失踪したまま未だに行方が分からない.拉致されたのではないかとの観測もある中,登美子はビラを配ったりできる限りの活動をしてきたが,何も判らぬまま30年がたった.同じ漁港で漁師をしている春男は,ずっと登美子と所帯を持ちたいと云ってきているが,登美子は応じることはない.
同じ街の病院に勤める奈美も2年前に教師だった夫が失踪した.奈美の相談に応じ,登美子は事情を詳しく聞き捜索に協力する.奈美は夫の失踪の理由を見出し,自身のけじめをつけたいと考えている.一方登美子は,夫の母親の葬儀に訪れた本土の町で,思いがけず奈美の夫・洋治を見かけ佐渡に連れ帰るが….4_20250630181601
登美子はいまだに夫の肉声が録音されているカセットテープを,繰り返し再生して聞いている.登美子の亡き父は,戦争から帰ってからは人が変わり,登美子を認めずその結婚も許さなかった.登美子には父への激しい反感が今もある.春男をめぐっては,その母(白石加代子)や漁協の幹部らが,いい加減に春男を受け入れよと説得するが登美子は受け容れず,春男は自分の小舟に乗って失踪してしまう.一方奈美は,病院の後輩職員から思いを寄せられ,彼との生活に傾きつつある.3_20250630181601
失踪した男を待つ女の葛藤を演じる女優二人が秀逸.特に田中裕子の演技は素晴らしい.帰宅したが奈美に追い出され,雨の夜に登美子の家を尋ねた洋治を受け入れた晩,一瞬洋治を夫と混同する場面の登美子は迫力がある.実母の葬儀で天涯孤独となった登美子が(喪主側の席には登美子以外誰もいない),棺に実母が保管していた父親の義足を入れようとして(「これも持って行ってもらおうと思った」)火葬場に断られるシーンのおかしさも素敵だ.春男を演じるダンカンは,こんな男と所帯を持つのは絶対嫌だと思わせる迫真の演技が良かった.5_20250630181601
プロットには必ずしも共感しない部分はあるが,俳優陣の演技に満足.
★★★☆(★5個が満点).
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2025/06/15

独断的映画感想文:ナミビアの砂漠

日記:2025年6月某日
映画「ナミビアの砂漠」を見る.1_20250616170601
2024年.監督・脚本:山中瑶子.
出演:河合優実(カナ),金子大地(ハヤシ),寛一郎(ホンダ),新谷ゆづみ(イチカ),中島歩(東高明),唐田えりか(遠山ひかり),渋谷采郁(葉山依),澁谷麻美(吉田茜),倉田萌衣(瀬尾若菜),伊島空(三重野),堀部圭亮(林恒一郎),渡辺真起子(林茉莉).2_20250616170601
カナは脱毛エステのスタッフとして働く21歳.友人のイチカと会い,彼女が同級生が亡くなったという深刻な話をしているのに,カナはその話に集中できない.隣の席で話している男たちの方に注意が向いている.帰りたくないというイチカと,先ほどのとなりの席の男性たちと一緒に飲むことになるが,カナはさっさと途中で帰ってしまう.帰った先はホンダと同棲しているアパート,ホンダは甲斐甲斐しくカナの世話を焼き,寝かしてくれる.カナはハヤシとも二股をかけている.ハヤシからは今の男と別れて一緒に暮らしてくれと云われる.ホンダが北海道出張で誘われて風俗に行ったと告白したことをきっかけに,カナはホンダの留守中に引っ越しを敢行,ハヤシとともに新しいアパートに移ってしまう.カナは鼻ピアスを,ハヤシはタトゥーを入れ愛を誓うのだった.4_20250616170601
ハヤシは物書きで自宅で仕事をするタイプ,自宅で暇を持て余すカナと衝突が始まる.喧嘩でアパートを飛び出し,階段から転落して怪我をするカナ,ハヤシはカナの世話をしてくれるが,回復すると喧嘩はまたエスカレートしていく.カナはハヤシの荷物にあった胎児のエコー写真を突き付け,その子はどうなったと激しく詰め寄る….
カナがハヤシと云う男と向き合っていく過程の物語.ホンダといたときはカナは何もしなくてもホンダが仕えてくれた.ハヤシと付き合って初めて,カナは自分がハヤシからどう見られるかを意識する.ハヤシの両親からバーベキューに招かれたときに,「非常識だと思われたくない」と服装を気にするカナ(しかし鼻ピアスはそのままだ).3_20250616170601
カナは母親が中国人というルーツがあり,そのことも改めて意識にのぼってくる.またカウンセラーからはある点での規範意識が強すぎるという指摘を受ける.隣の部屋の英会話教師ひかりからも助言を得る.それまでとりとめもなく過ぎていった日々が,少しずつ変わっていく様だ.終盤またもやハヤシと組んずほぐれつ取っ組み合いの大喧嘩をしているカナ,しかしその喧嘩はそれまでと違って明るい,アスレチックのような雰囲気がある.5_20250616170601
河合優美が何とも魅力的,自分勝手で手の付けられない女だが爆発的な魅力を持つ女・カナを見事に演じている.ラストシーンはナミビアの砂漠のライブカメラの映像.水場の周りに集まってくる動物たちが,微妙な距離をお互いにとって入れ替わり水を飲んでいる様子が映し出される.★★★★(★5個が満点).
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2025/06/12

独断的映画感想文:国宝

日記:2025年6月某日
映画「国宝」を見る.0_20250613214801
2025年.監督:李相日.撮影:ソフィアン・エル・ファニ.音楽:原摩利彦.
出演:吉沢亮(立花喜久雄),横浜流星(大垣俊介),高畑充希(福田春江),寺島しのぶ(大垣幸子),森七菜(彰子),三浦貴大(竹野),見上愛(藤駒),黒川想矢(喜久雄(少年時代)),越山敬達(俊介(少年時代)),永瀬正敏(立花権五郎),嶋田久作(梅木),宮澤エマ(立花マツ),中村鴈治郎(吾妻千五郎),田中泯(小野川万菊),渡辺謙 (花井半二郎).4_20250613214801
長崎に珍しく雪が降った1964年元旦,立花組は料亭で盛大な新年会を開き,組長の息子で15歳の喜久雄は余興の舞踊「関の扉」を,招待客の歌舞伎役者・花井半二郎の前で見事に踊った.ところがその直後,ヤクザの抗争によって父は殺される.喜久雄は花井半二郎に引き取られ,同い年の半二郎の息子俊介と共に,歌舞伎の修行に明け暮れることになった.2_20250613214801
仲も良く互いに切磋琢磨しながら成長していく二人,21歳の時,二人で踊った舞台を見た興業会社の社長の口利きで,二人は京都の歌舞伎の大舞台で,二人道成寺を踊ることになる.踊りは大成功,二人は一躍人気者となる.ある日半二郎は交通事故で,予定していた曽根崎心中の舞台に立てなくなった.代役に誰を立てるのか?半二郎が選んだのは喜久雄だった….3_20250613214801
原作は吉田修一のベストセラー.数奇なめぐりあわせから生涯のライバルであり盟友となった,御曹司俊介と芸の天才喜久雄との,波瀾万丈の運命を描く3時間の大作.この作品の魅力は,なんといってもその構造にある.スクリーンの上で,俳優の演じる歌舞伎役者が,その個人の葛藤を孕みつつ役の性根を演じきって行く.観客は曽根崎心中のお初に感動しつつ,お初を演じる喜久雄の芸に(そしてそれを演じている吉沢亮の演技に)心を動かされている,そのメタ構造がスリリングで魅力的.5_20250613214801
歌舞伎役者役を演じる吉沢亮,横浜流星,渡辺謙,田中泯がいずれも素晴らしい.その他の俳優たちもそれぞれに魅力的.宮澤エマの美しさ,寺島しのぶの存在感,またクレジットされていないが終盤に現れる瀧内公美も素敵.6_20250613215001
そしてこの映画のもう一つの魅力は映像と音楽だ.「アデル、ブルーは熱い色」で見たソフィアン・エル・ファニの,ワンシーンワンカットをゆるがせにしないカメラは実に見事.また,原摩利彦の感情をゆすり上げるような音楽も,素晴らしい.映画としても物語としても重厚・骨太な作品,見応え充分.1_20250613214801
★★★★☆(★5個が満点).
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2025/06/10

独断的映画感想文:あんのこと

日記:2025年6月某日
映画「あんのこと」を見る.1_20250613182701
2024年.監督・脚本:入江悠.
出演:河合優実(香川杏),佐藤二朗(多々羅保),稲垣吾郎(桐野達樹),河井青葉(香川春海),広岡由里子(香川恵美子),早見あかり(三隅紗良).2_20250613182701
事実に基づく物語.覚醒剤使用の容疑で取り調べられる21歳の杏,無表情で尋問には抵抗する.代わって取り調べに入った多々羅刑事は,一風変わったアプローチで杏の心をつかむ.杏は祖母と母との3人家族,母の命令で小学生のころから万引きをし,12歳からは売春を強要された.この日も「覚醒剤を買う金があったら家に入れろ」と殴る蹴るの暴行を受ける.4_20250613182701
杏は多々羅の指示に従って覚醒剤を絶つための会:サルベージに参加し,介護施設に就職する.初給料は20日働いて僅か5万円だったが,杏は家族にケーキを買って帰る.しかしその初給料は酔っ払って男と帰ってきた母親にすべて奪われた.杏は実家を出てDVシェルターに移り,理解ある介護の職場を得て働き始める.やがて夜間中学で勉強を始め(杏は漢字は読めず算数もできない),時たま多々羅とサルベージを取材している雑誌記者・桐野と3人でラーメン屋に行くのが日課となった.世界は徐々に杏の頭上に開いていく様だった.しかしこの時,コロナのパンデミックが世界を襲う….3_20250613182701
夜間中学は閉校し,ラーメン屋も閉店した.職場は非正規を解雇することになり,杏は仕事も失う.更に多々羅が女性会員に性的暴行をしたことが桐野の取材で判明し,多々羅は逮捕されサルベージは閉鎖となった.一方,DVシェルターの隣家の女性が,男から逃げるため1歳の子・隼人を無理やり杏に預け姿を消す.杏はやむなくその子の世話に没頭しているところを母親に見つかり,子供を人質に取られて売春を強要された….5_20250613182701
重たい題材を描くが映画は骨太だ.杏は多々羅や桐野に会うまでは一方的に奪われる存在だった.彼らに会って実家から出た時,ようやく与えられる存在となることができた.隼人を預かって世話をしている時,初めて杏は与える立場となることができた.しかしその関係性も,母親に破壊されてしまう.主人公杏のその過程を演じる河合優美がなんといっても素晴らしい.義務教育も満足に受けられなかった21歳の女性の,必死に生きていく姿が胸に迫る.周辺を固める俳優たちも申し分なし.見終わった後暫く心から離れない映画だった.
★★★★(★5個が満点).
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2025/06/09

独断的映画感想文:キンキーブーツ

日記:2025年6月某日
映画「キンキーブーツ」を見る.1_20250610145301
2005年.イギリス.監督:ジュリアン・ジャロルド.
出演:ジョエル・エドガートン(チャーリー・プライス),キウェテル・イジョフォー(ローラ),サラ=ジェーン・ポッツ(ローレン),ジェミマ・ルーパー(ニコラ),リンダ・バセット(メル),ニック・フロスト(ドン),ユアン・フーパー(ジョージ).4_20250610145301
イギリスの田舎町ノーサンプトンの伝統ある靴メーカー「プライス社」の跡取り息子チャーリーは,靴製造の技術を仕込まれたが本人の希望はロンドン暮らし.しかし晴れてロンドンに着いたその日に父が亡くなり,チャーリーはやむなく父の後を継ぐことになる.しかも父が隠していた納品先の倒産が明るみに出て,チャーリーは在庫処分のためロンドンへ.その夜チンピラに絡まれていた美女を助けようとしてノックアウトされ,気がつくと美女の楽屋に.美女はドラァグ・クイーンのローラことサイモンだった.ローラは,女性用の靴が自分の体重を支えられず,すぐに壊れると愚痴をこぼす.3_20250610145301
ノーサンプトンに戻ったチャーリーは辛い思いで15人の従業員をクビにするが,15番目にクビにした若い事務員ローレンに「ニッチ市場を開拓しろ」と発破をかけられる.そこでチャーリーはローレンを再雇用し,ローラの言っていた丈夫なハイヒールブーツを,『危険でセクシーな女物の紳士靴 (Kinky Boots)』として開発することにする.期待を胸に工場にやって来たローラをコンサルタントとして,チャーリーはブーツの生産に着手するが,従業員は必ずしもその路線に賛同していなかった….2_20250610145301
チャーリーはこの新作をミラノの靴見本市に出品する決意を固めるが,従業員の気持ちはなかなか一つにならない.一方チャーリーの婚約者ニコラは,工場を売り払ってその金をもとにロンドン暮らしをしようと主張していたが,チャーリーがミラノ見本市のために自宅まで抵当に入れたことを知って激怒する.しかしニコラは裏で不動産業者とできていた.それを知ったチャーリーは激昂し,ミラノでモデルを務める予定のローラと喧嘩してしまう.この混とん状態のままチャーリーとローレンたちはミラノに行けるのか…?5_20250610145301
実話をもとにした映画(らしい).優柔不断のチャーリーがローラとローレンと云う相棒を得てオトコになって行く物語でもあり,プライス社の従業員たちが偏見から目覚める映画でもある.「それでも夜は明ける」の名優キウェテル・イジョフォーの筋骨たくましいドラァグ・クイーンぶりは傑作,彼がステージで歌う懐かしい歌の数々も素敵だ.イギリス流のユーモアも随処にあり,最後に落ち着く大団円は心温まるものだ.なお,この映画をもとに,シンディ・ローパー作詞・作曲で作成されたブロードウェイミュージカルが2013年に上演され,その舞台をシネマ化した映画「キンキーブーツ」が2018年に作成された.ややこしいけどお間違えの無いように.
★★★★(★5個が満点).
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